第13話 「やべぇ、こいつ動いてんじゃん。ウケる」
なんか迷ったっぽい。
ダンジョン探索にやる気をなくした俺は、一刻も早く帰宅したくて来た道を真っ直ぐに引き返しているはずだが、全然この暗闇から抜け出せる気配がしない。
マジうぜぇ。
帰るっつってんだろ。
むしろ出口の方から俺に近づいてこいよ。
あの趣味の悪い蝋燭台と、その先に不細工面を晒している汚っさんはどこだ。
時々この通路ではキショい奇声が響き渡ってなお不愉快だった。
さらにその奇声が聞こえるたびにマドカが、「任せてください!」、とかわけのわからんことを言って闇の奥に走り去っていくのもまた薄気味悪く、本当に心の底から家に帰りたかった。
てかあいつマジでクスリでもキメてんじゃねぇのか?
どうも禁断症状が出てるとしか思えない。
「……お? なんだ?」
「いよいよですね……!」」
そうやって鼻糞をほじっては放り投げて歩き続けていると、ふいに通路の壁が蒼色に光っている場所に辿り着いた。
オシャンティ気取りのイルミネーションか?
こんな無駄なところに電気代かさませるくらいなら俺に金回すべきじゃね。
なんだか無性に他人の金で風俗に行きたい気分だぜ。
「ついにダンジョンマスターのいるボス部屋が近そうですね」
「は? ダンジョンマスター? なんの話だ?」
「またまた~。タカヒトサマさんったら~」
隣りを歩くマドカは今にもオホホとか、ザマスとか言いだしそうな身振りで俺の肩をつつく。
相変わらず気持ちの悪い奴だ。
俺という崇高な存在が近くにいなければ目も当てられない。
つかどんどんこいつのキャラが崩壊していってる気がすんな。
人格コロコロとかマジ怖い。
マジヤバい。
「それでダンジョンマスターってのはなんなんだよ」
「あれ? もしかしてこのダンジョンのダンマスは何か、っていう質問でしたか? そういえばここのダンジョンに来るのは初めてって言ってましたね」
ナチュラルにダンマスとかいって略されて少し眉がピクつく。
こういうなんでも略称にする奴っているよね。
でもそういう奴に限って周囲から存在を略されることが多いよね。
思慮と慈愛に満ちた俺は、そう考えるとマドカがとても可哀想な生き物に思えてきた。
「でも当然僕もこのダンジョンに来るのは初めてなので、どんなダンマスなのかは知りませんよ。だいたいダンジョン自体ここが初挑戦なんですから」
「……ドンマイ。強く生きろよ、マ」
「え? なぜ急に僕は慰められたんですか? というか最後の、マ、ってなんですか? なんか語尾につけるといいことでも起こるんですか?」
「おい、扉が見えてきたぞ、マ」
「あ、本当ですね……マ?」
「は?」
「え?」
なんて生意気な野郎だ。
自分はなんでもかんでも略すクソザコの分際で、俺がこいつの名前を略して読んだ途端煽ってきやがった。
マジこいつが背中に物騒なもん担いでなかったら、ワンパンKOしてっからな。
ガチだぞ。
「ちっ、行くぞ」
「あれ? タカヒトサマさん怒ってます? なんか僕気に障るようなこと言いましたか? もしそうだったなら謝ります」
「べつぅにぃ? 怒ってませんけどぉ?」
「えぇ!? 絶対怒ってるじゃないですか!? なんで!?」
うっせぇなこのショタは。
怒ってねぇっつってんだろ。
お前は隙あらばSNSにスタバの写真アップする目障り系スイーツ女子か。
可愛くなりたい~、マジ私ブスなんですけど~、とか言いながらドヤ顔自撮りアップしてるよこいつがもし女だったら絶対。
「ちょっと待ってくださいよ! タカヒトサマさん! 怒ってるなら本当に謝らせてください!」
「……」
イライラがピークに達した俺は、マドカを振り切るように視線の先で意味ありげに佇む扉のところまで早歩きで向かう。
来た道とはおそらく違う場所だが、とにかくここから出れそうだ。
ほとんど視野が効かない中、直観だけで別の出口見つけるとか俺ってやっぱ神だな。
控えめに言ってもジーザスクライスト。
「……ヴォォォォ……」
しかし扉を開いた先は俺の想像していた安心安定のコンクリート部屋ではなく、石畳みの広場のような場所だった。
そしてその大広間の中央には、よく博物館で見かける恐竜の骨格標本が鎮座している。
なぜか翼があり、本来空白のはずの眼窪が黒一色に染まっていることを除けば、よく見るアレだ。
「こ、このモンスターは“虚骸竜スケルトンドラゴン”……! 祖父から話を聞いたことがあります!」
「やべぇ、こいつ動いてんじゃん。ウケる」
「ヴオオオオオオ!!!」
さすがは科学大国ニッポン。
最近の骨格標本は動くし、喋るらしい。
でも恐竜に翼はないだろ。
これつくった奴はそんなことも知らねぇのかよ。
本当無知って恥ずかしい。
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