第11話 「今はいない」
「つか暗くね? 馬鹿じゃね? ほとんどなんも見えねぇんだけど」
「またまた、タカヒトサマさんは。この程度の夜目も効かない人が冒険者としてやっていけるわけないじゃないですか」
ダンジョンとやらに入ったはいいが、中がアホかと思うほどに暗くて目と鼻の先すら見通せない。
しかしだからといって暗いところが苦手じゃない俺は、とりあえずズンズンと通路を歩き続けている。
というかこんだけ暗ければ逆に宝石とか見つけやすいんじゃね?
どうせあれだろ?
俺に取ってくださいとばかりに光り輝いてんだろ?
宝箱的なあれがそこら辺でさ?
「なあ」
「どうしました?」
「お前あんな女のどこがいいの?」
「え? 女? なんの話ですか?」
「ほら。お前が今付き合ってるあの女だよ」
「へ?」
自分がどんな場所を歩いているのかもわからず暇なので、マドカに喋りかけてみる。
こいつは一応、俺の妹の同居人なはずだ。
つかそれを超えて隙あらば猿みたくヤりまくってるふしだらな関係性をあろうことか俺の妹と持ってる男だ。
なんだこいつ。
よく考えて来たら腹立ってきたな。
俺は心優しいため手は出さないでおいてやろう。
べつにビビってるわけじゃねぇぞ勘違いすんな。
ほんとだよ。
ほんとにビビってないからね。
「え、えーと、どういう勘違いをしてるのかわからないですけど、僕にはその、恋人はいませんよ? 残念ながら」
「は?」
「なんですかその反応。というか自分で言うのも恥ずかしいんですけど、生まれてこの方、僕、女性の方とお付き合いしたことないですよ?」
「お前それマジで言ってんの?」
「そ、そんなに驚かないでくださいよ。恥ずかしぃ……」
いや驚くだろ普通。
まさかの、お前の妹俺のセフレだかんな、宣言。
やべぇだろ。
こいつマジか。
しかも正式に誰かと付き合ったことはないという、筋金入りのヤリチンときた。
羨ま……じゃなくてマジムカつくぜ。
「そういうタカヒトサマさんはどうなんですか? えと、その、恋人、いるんですか?」
「……今はいない」
「そうなんですか? はは! 意外ですね! なら僕と一緒じゃないですか。なんかタカヒトサマさんに少しだけ近づけた気がして少し嬉しいです!」
「……」
畜生だぁ。
こいつ、モノホンの畜生だよぉ。
くぅ、こいつ懇ろ丁寧に煽ってきやがるぅ。
可愛い顔してただのゲスぅ。
寝とった妹の兄を嘲笑うその根性に俺は素直に賞賛を捧げるぅ。
「……はぁ」
「急に溜め息を吐いてどうしました?」
「わからない? わからない、か」
「え?」
マジ最近の若者って駄目ね。
まったくもって思いやりの心が足りてない。
自分以外の誰かを見下すのがそんなに楽しいかね。
本当に心底がっかりしているよ。
この世の中にね。
俺に股を開かないこの世界の女性全てにもね。
あー、俺以外の男全員ある朝突然全身けもくじゃらになって女から軽蔑されねぇかな。
「……はっ! まさか!?」
俺が日本社会の行く末について憂いていると、隣りでマドカ、改めヤリチンベビーフェイスが何か硬質な音を立て始める。
俺とこいつの何が違うというのだろう。
なぜこんなチンの毛も生えていなそうなポンコツがピストンしまくりで、俺という完璧生命体が放置されているんだ。
もうなんかやる気なくなってきた。
帰りてぇ。
無性に帰りてぇよ。
「し、知らない間に三体も……! ど、どうしましょう! タカヒトサマさん!?」
「すまん。なんか俺やる気なくしたから帰るわ」
「ちょっ!?」
一旦やる気をなくすと、俺という人間はとことんやる気を失くす人間だった。
つか腹すかね?
俺最後に飯食ったのいつだ。
「あとはお前一人でやっといて」
「何言ってるんですかタカヒトサマさん!? このモンスターたちどうすればいいんですかっ!? 僕一人でCランクダンジョンは無理ですよぉっ!?!?」
「大丈夫大丈夫。お前なら余裕だって。その下半身にしまってあるご自慢のモンスターを信じろ」
俺は踵を返し、颯爽と出入り口への道を引き返して行く。
なんだか知らんがマドカが一人泣き喚いている。
しかしいまだに目が闇に慣れず、俺にはどういう状況なのかさっぱりわからない。
だが聡明な俺には予想が簡単についた。
どうせゴキブリかなにかでも出たんだろう。
まったくだらしのない野郎だ。
「無理無理無理無理です!」
「おい。しがみつくなよ。ハルバードじゃどうせ当たんねぇから、とりあえず踏み潰せ」
「踏み潰す!? 正気ですか!?」
「お前女かよ。キンタマついてんだろ。男見せろ」
「そう言うならタカヒトサマがやってくださいよ!」
「靴が汚れるので拒否。いいから行ってこい」
「うわぁぁぁ!!! もうやけくそだぁぁぁ!!!」
俺は腕を振り払い、今度こそ背中をマドカに向ける。
見かけによらず騒がしい奴だな。
たかが虫に何をピィピィ言ってるんだか。
「お願いします死んで滅んで再起不能になってくださいっ!」
「――ギョェッ」
すると、後ろの方からやけに生々しい潰滅音が聞こえてきた。
けっこう大きめのゴキだったみたいだ。
しかもその気色悪い音は合計三度ほど繰り返された。
「……あれ? 勝てた?」
あいつマジでやったんだな。
ゴキくらい放置すればいいのに。
俺は虫とか生理的に無理だから、これは真似したくない。
つか虫踏み潰すとかあいつ気持ちわる。
ちょっと距離とろ。
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