第9話 「お、おう。わかったから、そんなキレんなよ」


 ダンジョンへの道のりが記された地図を頼りに、パリコレモデル顔負けのウォーキングをしていると、やがて牛牛ファイナンスの事務所がありそうな古ビルに辿り着いた。

 てか今更だけどダンジョンってなに?

 クリスタルだの金銀財宝だのダイアモンドだの札束だの転がり堕ちていると聞いてやってきたはいいが、いまいちどんな場所なのか把握していない。

 でもまあなんでもいいか。

 つかキンタマ痒い。


「着いたみたいだぞ。マドカくん」

「うわぁ……ここですか。本当にきちゃったんですね、僕。というかタカヒトサマさん、なんか僕に対する態度ちょっと変わってません? 知らない間に君づけになってるし」

「は? か、かかか変わってねぇよ何言ってんのお前? あ、すいません、ちょっと訂正します。何言ってんのお前さん?」

「……その訂正意味あります?」


 意味わかんねぇこと言ってるマドカを無視して、俺は古ビルに入っていく。

 地図によればダンジョンとやらが地下三十階にあるらしい。

 っては?

 地下三十階?

 東京メトロでもそんな深くまで潜ってないんじゃね?

 地震とか来たら嫌だなと思いつつも、俺はしぶしぶエレベーターに乗り込む。


「そういえばタカヒトサマさんって、ここのダンジョン来たことあるんですか?」

「ない」

「はぁ……だと思いました。ええ。知ってましたよ。どうせそんなことだろうと」


 マドカは裏金取引がバレた政治家みたいな顔をして溜め息を吐く。

 俺はそんなマドカの態度に若干苛立ったが、マジ神に心が広いので余裕で許した。

 もちろんこいつが背負ってるハルバードにビビったとかそういうわけじゃない。

 マジ違げぇから。

 

「チンッ」


 エレベーターの天井をマドカの背中から飛び出るハルバードがぶっ壊さないか心配だったが、いい感じにギリギリセーフ的なアレだった。

 扉の外に出ると、そこは学校の教室程度の広さがある部屋。

 蝋燭台が延々と続く通路の入り口が見え、その横にはクソ胡散くせぇオッサンがいた。

 なんか汚ねぇ顔してんな。

 イケメンの俺に嫉妬して襲い掛かってきたりしないだろうな?


「……あーい、いらしゃいませぇ……ご用件は何でしょーか、と」

「あの、ダンジョンを探してるんすけど」

「……あー、はいはい。ギルドカードをお願いしまーす、と」


 仕方ねぇから汚っさんに話しかけたが、ビックリするほど適当に扱われる。

 俺の知らない漫画雑誌から一切目を離さずに、しまいにはドブみたいな色した菓子パンをムシャムシャ食べ始めた。

 こいつもマクナルの店員か?

 それとも別口のバイトか?

 とにかく態度がなってない。

 てか舐めてる。

 俺がジョブズだったらすぐさまこいつを職場からアンインストールするぞ。


「す、すいません。こ、ここここれが僕のです。おおおおおおお願いします」

「……あー、はい。おっけーでーす、と」


 なぜか冷や汗に額をびっしょりにしてマドカは汚っさんにカードを渡す。

 だが案の定というべきか、ろくに見もせず数秒手で触ると返却した。

 まじなんなのこいつ。

 いる意味ある?

 というかこれで給料貰ってんの?

 なにそれ俺もここで働きたいんだけど。


「……あー、もう一人のお兄さんは?」

「……ほらよ」

「あーい、あい、と」


 ぶっちゃけこの汚っさんの汚手手で俺のカードを触られたくなかったが致し方ない。

 俺はこう無駄な争いは起こさないタイプだ。

 彼だって好きで汚いわけじゃないんだろう。

 社会的弱者の気持ちもわかっちゃう俺マジカッケェな。


「……あー、認証完了でーす、と。どうぞお入りくださーい、と」


 よくわかんねぇが糞どうでもいいチェックはこれで終わりのようだ。

 これで後はあらかた金を稼ぐだけ。

 楽しみだぜダンジョン。

 牛丼一週間分は頼むぜ。


「ほら、行くぞ」

「……や、やっぱりなんだかんだで凄いですね、タカヒトサマさんは。“門番ゲートキーパー”相手に普通に接することができるなんて」

「は? あの汚っさんにお前緊張とかしてんの?」

「そ、そりゃしますよ! 門番をオッサン呼ばわりするタカヒトサマさんがおかしいんです!」

「お、おう。わかったから、そんなキレんなよ」


 汚っさんを嘲るような言い方をすると、ハルバード持ったマドカが鼻息を荒くする。


 嘘だろこいつもしかしてオヤジマニア?


 俺はマドカにドン引きした。

 顔がガチなので特別なにかを言うことはないが、マジでドン引きながら、そして俺はダンジョンの入り口をくぐって行った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る