第7話 「またのお越しをお待ちしております」




 私の名前はユウキ・サクラ。

 胸につけた名札の所属からわかるように、冒険者ギルド南千住の受付嬢をしている。

 自分で言うのもなんだが、私はかなり可愛い。

 それはもう私と初めて会う間抜けな男ども全員が、アホ面晒して涎をダラダラと垂らしてハァハァと臭い息を吐くことになる程度には顔立ちが整っている。

 今はたしかに恋人関係にある男はいないが、それは決して私がモテないということではなく、私に釣り合うような男が中々現れないのが理由だ。

 むしろ高嶺の花もいいところ。

 引く手数多だという事実は勘違いしないで欲しい。



「いっらしゃいませ~!」



 すると店内の自動ドアが開いたので、私は可憐な声を響き渡らせる。

 しかし視線を前方に移し、来店した人物の顔を見ると私のテンションは一気にガン萎えしてしまう。

 

 出たよ。

 アディオス藤木だ。


 なんとやってきたのは、数時間前にギルド登録をしたばかりの将来性皆無のゴミカス底辺冒険者だった。

 カッコつけのつもりなのかなんなのか知らないが、自分のフジキ・タカヒトという名前を冠字カンジという昔使われていた文字で書いた頭のかれた野郎。

 顔も三流。

 気配も三流。

 というかイカ臭せぇんだよ風呂入れ。

 様々な要因から私が現在事故死して欲しい冒険者ランキングぶっちぎり一位の男が、暇なのか私に惚れでもしたのかまたやってきたらしい。


「ようこそいらっしゃいました。まずはギルドカードをお見せください」

「やあ、また会ったね。ユウキさん」

「ぐっ……ぎ、ギルドカードをお見せください」


 キメェェッッッキモ汁ブッシャァァァッッッッ!!!

 なに気安く私の下の名前呼んどんじゃワレェッ!? 

 また会ったねじゃねよテメェから会いに来てんだろ殺すぞチンカスがああん!?


「実は俺、ダンジョン、とかいうところに行きたいんだよね。ここに来れば地図が貰えると聞いたんだけど? あるかな? キラッ!」

「……ギルドカードをお見せいただいてもよろしいでしょうか?」


 おいこらアディオス藤木?

 耳クソでも詰まってんのか?

 まずはギルドカード見せろっつってんだろ?


「いやー、それにしても驚いたよ。君はハルバードとかいう刃物知ってる? 実はね、ここだけの話、ハルバードは銃刀法に違反しないみたいなんだ。知らなかったでしょ? ははっ! 友達に自慢してもいいよ! この俺から教わった豆知識を! キラッ!」

「……あの、ですので、ギルドカードを」


 あー、今すぐこの馬鹿男の首でハルバードの切れ味試したい。

 というかなんでこいつ私の話全然聞かないの?

 馬鹿だから?

 馬鹿だからなの?

 あとさっきからキラキラキラキラうるせぇ。

 心臓麻痺で早く逝けよ。

 

「おっと、話が盛り上がってつい脱線してしまったね。話を元に戻すけど、地図はあるかな? できればこの辺で一番儲かるダンジョンの地図がいいんだけど? キラッ?」

「……この辺りで一番レベルの高いダンジョンですと、Cランクダンジョンになりますが、そこの地図でよろしいでしょうか?」

「あ、それでいいよ。キラッ!」

「地図の貸し出しにはギルドカードの提示が必要となりますが?」

「そうなの? そういうことは早く言ってよ。キラッ?」


 こいつ……!

 私は太腿を思い切りつねることで平常心をなんとか保つ。

 落ち着け。

 落ち着くんだ私。

 こんなチンカス如きに心をかき乱されるなんて私らしくないぞ。

 でもキラッの疑問形だけは次やったら殺す。


「こちらがCランクダンジョン“虚骸の迷宮”の地図になります」

「お、ありがとう。助かるよ」


 しかしここで私はある事実に気づき、途端に心に平穏を取り戻す。

 そうよ。

 このままいけば、この男の顔を見ることはもうこれで最後じゃない。

 どっからどう見ても冒険者としては三流以下のこいつが、Cランクダンジョンに潜って無事に戻ってこれる確率は多めに見積もってゼロ。

 昔はこういう金に目がくらんで、自分の実力以上のダンジョンに挑む輩が沢山いたと聞くが、最近は減って来ていた。

 それにも関わらずこのチンカスは、初心者の分際でいきなりCランクダンジョンに挑むと言っている。

 ここまで頭が悪い人間が現代にまだ生き残っていることは驚きだけど、この数少ない原始人が絶滅するまであと少しだ。



「それじゃあ、行ってくるよ。またね、ユウキさん」

「……またのお越しをお待ちしております」



 アディオス藤木。

 永遠にな。




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