第6話 「ハルバードね。へ、へぇ、似合ってるじゃん」
「タカヒトサマさん、ダンジョンに行きませんか?」
「は? なに言ってんだお前?」
自室のベッドで特になにもせずゴロゴロしていると、突然マドカがわけのわからないことを喚き出す。
少しだけ気恥ずかしそうにしているが、なぜかその目にはやる気がみなぎっていた。
ダンジョンというを言葉はどこかで聞いたことのあるような気がしたが、よく思い出せない。
てか眠かった。
「僕の実力が未熟なのは十分わかっているんですけど、やっぱり一度は自分の力を試したくて……ほら、いくら弱いって言っても、自分がどれくらい弱いのかも知りたいですし……それに僕も、ダンジョンに潜るの結構憧れてたっていうか……」
やべぇこいつがなに言ってるのか1マイクロもわかんねぇ。
というか眠すぎてなんも話が頭に入ってこねぇよ。
腹も減ってきたし、早く妹の方のマドカ帰ってこねぇかな。
とりあえずこいつはさっさと俺の部屋から追い出そう。
「お前一人で行けば?」
「えぇっ!? そ、それはたしかにそうなんですけど……やっぱり不安もあるっていうか、まだ一人じゃ怖いなっていうのが正直なところでありまして……」
ブツブツブツブツうるせぇよ。
お前はチアシードか。
「じゃあ行くの止めれば?」
「えぇっ!? そ、それはちょっと……お金に余裕がない僕的には毎日ダンジョンに行ってクリスタルを集めないとみたいな……」
「なに?」
だがそこで俺の優秀なるお耳様がある響きをキャッチする。
お金。
英語で言えばマネー。
インド語でいえばルピィだ。
俺の博識さがうっかり漏れてしまっているが、とにかくこいつの口からいま金という言葉が出てきたことは間違いない。
ダンジョンに行けば金が手に入る?
よくわからんけどこれは行くしかねぇな。
「……仕方がない。俺も付いていってやろう。それでその金銀財宝が眠っているというダンジョンとやらはどこにある?」
「え? ダンジョンにあるのはクリスタルだけですし、場所はギルドの方から地図を貰わないとわからない……というかタカヒトサマさんの方が詳しいんじゃ?」
「ギルド? ああ、あのマクナルのことを、そういえばそんな感じで最近のガッキは呼ぶんだったな」
まさかマクナルの会員に偶然なったことがここで役立つとはな。
さすが俺。
一切無駄のない伏線回収だぜ。
今日また行くことになると思わなかったが、金が手に入るのなら迷う暇はない。
「よっしゃじゃあ早速行くぞ」
「あの準備はいいんですか? ほら、剣とか、鎧とか?」
「あ? んなもん俺が持ってるわけねぇだろ。ここは日本だぞ? アーユゥージャパニィーズ?」
「す、凄いですね」
俺のネイティブ並みの英語の発音の素晴らしさに感嘆したのか、マドカは目を輝かせる。
つかこいつどこの修羅の者だよ。
剣と鎧?
なんかの隠語か?
銃刀法すら知らねぇとかこれまでなにを学んできたんだ。
ん?
というか今気づいたがこいつ何歳?
どっからどう見ても十代前半に見えるが……嘘でしょ?
俺の妹ショタ属性なの?
うわ。
ドン引きですわ。
やべぇよ俺の一族。
人格まともな奴俺だけじゃねぇか。
「すいません僕は少し準備がいるので、玄関で少し待っていていただけますか?」
「おう。急げよ」
俺は基本的に働くことをよしとしないが、別に金が嫌いなわけではない。
むしろ大好きだ。
将来の夢は札束で美女のケツを叩くこと。
そんな金が労働無しで手に入るのならば、俺はどんな手でも尽くそう。
むろん、疲れない方法でならというカッコ書きがつくが。
「すいません、お待たせました」
「おう、やっときたか……てうへぇっ!?」
しかし先に玄関先で待っていた俺に追いついたマドカの格好は、理解の範疇を余裕で飛び越えていた。
俺は戦慄する。
決して触れてはならない存在と交友関係を持ってしまったのではないかと。
「それ、なに?」
「あ、これですか? ハルバードです。僕、これが得意なんですよ」
「ハルバードね。へ、へぇ、似合ってるじゃん」
どっから持ってきたのか、マドカは背中にどう見ても木を切る用途以外のために造られたであろう巨大な斧を背負っている。
完全にモノホン。
レプリカでは決して醸し出せない重量感がその証拠だ。
服装もどこかの山賊みたいな危うい格好そのもので、これで街に出れば職質はまず避けられないだろう。
「お前、その格好で行くの?」
「まずい、ですかね?」
いやそりゃマズイだろ。
何を心配しそうな顔で外を見つめてんだよ。
どう考えても一番この街で心配なのは今のお前だろうが。
アカン。
こいつ可愛い顔してマジヤベェ奴だ。
「でも僕この格好以外で行くのは不安で」
「そ、そう。なら、しょうがないかな」
不安の塊が困ったような口調でそう言う。
俺は賢い男だ。
初見でこいつの危険性を見抜けなかったのはアレだが、とにかくこういう輩は下手に刺激しないに限る。
「それじゃあ、行きましょうか。僕、なんだか楽しみになってきました」
「う、うん。そうだな。楽しみだな。色んな意味でな」
怖いわ。
都会ってほんと怖い。
とりあえず今のうちにこいつと俺は無関係、赤の他人だってことを証明するための言い訳考えなきゃな。
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