第4話 「お前もバイトとかしたくないタイプの人?」
冒険者とかいうわけのわからないマクナルの会員になった後、俺は今日一日分の活動エネルギーを使い果たしたことを自覚し帰路についていた。
目指すのは俺の妹である
というかもうほとんど俺の家と言っても過言ではない。
てかダリィ。
家帰るのすらクソダリィわ。
「あー、鍵どこやったっけな……」
ぶつくさ文句を言いつつもなんとかマンションに到着し、俺は合鍵を取り出そうとポケットをまさぐる。
にしても円佳の奴、本当いいとこに住んでやがんな。
本当にただのOLかよ。
絶対パパ活やってるよ。
俺のママはどこだ。
俺とは違って妹はいい大学を出て、ホワイトくせぇ大企業に就職している。
当然そんな優秀な妹の兄である俺は、もっと優秀だということは確定的に明らかだ。
ヤベェな。
俺の伸びしろ絶倫過ぎ。
「チンッ」
そしていかがわしい音と共に、エレベーターが俺を出迎えるため降りて来た。
小指で鼻糞をほじり、そのほじりたてホヤホヤの指で6のボタンを押す。
今日は久し振りに外出たし、また一週間くらいは家から出なくていいな。
「チンッ」
またエレベーターがチンチン喚いている。
どうやら六階についたらしい。
俺は疲労の滲む身体をなんとか動かし、649号室まで歩いて行く。
てか前から思ってたけど部屋番号おかしくね?
一つの階にそんなに部屋ねぇだろ。
用意しておいた鍵でガチャっとやると、当たり前だが部屋が開く。
この時間帯にはあいつはまだ帰ってきてないだろうな。
俺は無言で靴を脱いで、さっさと自室へ向かおうとする。
しかし途中で予想外の光景に出くわし、足を止めることとなってしまった。
「……は?」
「……あ、ど、どうもこんにちは」
なんか知らねぇ奴いんだけど。
俺に向けられるのは若干キョドリ気味の声。
自室に行くためにはリビングに行く必要があるんだが、なぜかそのリビングには見たこともない奴がいて、暢気に挨拶をしてきやがる。
誰だこいつ。
まったく想定していなかった事態に、俺は完全に硬直してしまう。
「誰だお前」
「え? あ、ぼ、僕はマドカっていいます」
「マドカ?」
「は、はい」
俺の家に勝手に侵入した不審者は素直に名前を答える。
いや違げぇよ。
名前じゃなくて何者かを訊いてんだっつの。
しかも妹と名前被りかよ。
「え、えーと、今日からよろしくお願いします」
「は? なにが?」
「へ? あの、だから、僕も、今日からここに住まわせていただくので……」
「は? お前もここに住むの?」
「えと、はい、そうです」
マジかよ。
妹と同じ名前を名乗った不審者は、当たり前のように俺の同居人になると主張してくる。
なんなのこいつ。
まさか妹の彼氏か?
それでイチャラブ同棲生活ってか?
ふざけんなよあの女。
誰の許可でこんな勝手なことしてくれてんだ。
「……お前もさあ、空気読めよ。何しにここに来たの? 本気でここに住む気?」
「え?」
苛立ちがマックスに達した俺は、とりあえず先制嫌味パンチをお見舞いする。
あー、最悪だわ。
俺というものがありながら、別の男家に連れ込むとか。
マジないわー、最近の女って本当そう。
性の氾濫を感じるね。
むしろ俺の方が大和撫子。
「あ、あの、僕も甘い認識だってのはわかってるんですけど、それでも夢を諦め切れなくて……」
「夢ねぇ……」
なに言ってんだこいつ。
俺の妹と同棲するのが夢ってか?
タマキンもぎるぞ。
「ちなみに、あの、あなたは……」
「貴仁様と呼べ」
「す、すいません。その、タカヒトサマさんはここに住んでどれくらいになるんですか?」
「ざっと三年だな」
「三年!?」
お前とはキャリアが違うのだよ。キャリアが。
気弱そうな間男に俺は格の違いを見せつける。
「バイトとかしてるんですか?」
「してないな。今は一切」
「そうなんですかっ!?」
「なんか文句あんの?」
「いえ! ただ、その、凄いなって思って!」
マジかよ。
俺こいつにメッチャ舐められてますやん。
気弱と見せかけてこの男、ずいぶんと丁寧に煽ってくる。
何が凄いなって思ってだ。
まあ俺という存在自体はマジ神凄げぇけどな。
「そ、尊敬します! 僕もタカヒトサマさんみたいになりたいです!」
「は? なに? お前もバイトとかしたくないタイプの人?」
「はい! 僕もバイトとかそういうのは絶対しないつもりでここに来ました!」
「……マジで?」
「僕は本気です!」
なん、だと。
こいつもまさか俺と同じ側の人間だというのか。
油断したぜ。
こんな可愛い顔してこの無職への熱意。
ただもんじゃねぇ。
「……俺はお前を誤解していたようだ。今日からよろしくな、マドカ」
「はい! よろしくお願いしますタカヒトサマさん!」
初めて俺に住所不定無職系の仲間ができた。
あとその貴仁様さんってなに? やっぱ舐めてますわこいつ。
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