第三部B面 空の繋がった日3

 須藤くんと別れても、ボクはボンヤリと中庭のベンチに座っていた。

 胸の中ではいまもいろんな感情が渦巻いている。

 ボクは自分の気持ちに気付いてしまった。

 本当に望んでいたことがなんだったのかに気付いてしまった。

 気付いてしまった以上、もう自分の気持ちを偽ることなどできない。

 ボクは竹流のことが好きで、傍にいて欲しいと思っている。

「まさかボクが……ねぇ」

 ボクの中にこんな乙女ちっくな感情があったことに自分でも驚いていた。

 そんなことを考えていたとき、遠くのほうからアイヴィーが走ってきた。

 なんだか必死の形相をしている。

 その手には何か黒いモノが握られているようだった。

 ボクは息せき切って駆け寄ってきたアイヴィーに尋ねた。

「どうしたの? アイヴィー」

「こ……こ……れ……これ……を……」

 息切れしていて言葉にならないようだ。

 それでもアイヴィーは手にしたなにかをボクに差しだそうとしていた。

 ボクは訝しみながらもそれを受け取った。

「これって……スマホ?」

 見覚えはあるようなないような……とにかくボクはそれを覗いてみた。

 映し出される待機画面。

 そこに表示された写真に釘付けになった。

「このスマホって、まさか……」

 その画面に写っていたのは竹流と菜穂のツーショット写真だった。

 ボクはこのピンク色のスマホが誰のものなのかハッキリと理解した。

 七瀬菜穂のものだ。

 この写真はボクがあの日に部室で撮ったモノ。

 そしてボクがお詫びのメールと共に彼女に送った物なのだから。

 これを持っているのは彼女以外には考えられない。

 ボクはその中を確認することにした。

 あまり褒められた行為ではないのはわかってるけど、ソシャネ病に感染する前の彼女のがなにを思っていたのか、なにをしたかったのかがわかるかもしれない。

 パスワード設定はされていたけど……きっと『0707』だ。

 なにかのとき、菜穂は忘れないように誕生日に設定していると言っていた。

 そして彼女の誕生日は憶えやすい。

 七月七日。七夕だ!

 案の定、『0707』と打ち込むとスマホのロックは解除された。

 緊張で震える指先で、トークアプリを起動してみる。

「っ!?」

 その中身を見て、ボクは再び驚愕することになる。

「これって……もしかして……」

 背筋がゾクリとした。

 事実を理解するに連れて身体が震えてくる。

 そして……いろんな感情がボクの中でごちゃ混ぜになった。

 どう処理したらいいかもわからない。

 だけど、ただ一つわかってることは……。

「あれ、まだこんなところにいたの?」

 急に声を掛けられてビクッとなった。

 顔を上げると須藤くんが不思議そうな顔をして立っていた。

 さっき会ったときよりちょっとボロボロになっている気がした。

 口の端が切れてるみたいだし……っていまはそんなことより!

「須藤くん! すぐに竹流と菜穂を捜して!」

「はぁ? 竹流ならさっき屋上にいたけど……どうしたの?」

「ボクたちはすれ違っちゃってたんだ。だから元に戻さないと……」

 不安はある。なにかが決定的に終わりかねない不安が。

 だけど躊躇っていたら、ボクたちはきっと……一歩も前に進めない。

「わけは後で全部話すから、なんとか菜穂を捜して屋上に連れてきて。『スマホを預かってる』って言えば従ってくれると思うから」

「あ、おい……連れてくるったってあの子は……」

 須藤くんの返事も聞かず、ボクは走り出していた。

 今日ですべての決着をつけるためにも、いま竹流を帰すわけにはいかない。

「待ってヒカルッ」

 アイヴィーはわけがわからないといった顔で追いかけてきた。

 ちょうど良い。彼女に頼もう。

「アイヴィー、お願いがあるんだけど頼めるかな?」

 ボクは走りながらアイヴィーにあることを頼んだ。

 アイヴィーはキョトンとしていたけど、頷くとべつのほうへ走っていった。

 さあ、早く竹流のところへ行かなきゃ。

 そして話をしなきゃ。

 多分その結果によってみんなが心を痛めることになるだろうけど、

 この現状を打破できるなら、ボクはもう躊躇わない。

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