第三部 IVレポート4

「馬鹿らしくてつきあっていられないよ……まったく」

 ヒカルは嘘つきだ。自分の気持ちも相手への気持ちも押し隠している。

 それなのに「自分の気持ちがわからない」って言うんだもん。

 そのくせ、口を開けばあの人の名前ばかりを出すんだからやんなっちゃう。

 竹流はわたしにとって名付け親で、わたしにとっては大事な人だった。

 ヒカルは竹流の心の大部分を占めている。

 竹流もヒカルの心の大部分を占めている。

 なんだかとってもおもしろくなかった。

 お父さんに再婚相手を紹介された子供ってこんな気分なんじゃないだろうか。

「久しぶりに明日香さんのところにでも行こうかな……」

 明日香さんならわたしの愚痴を聞いてくれて、アメ玉くらいくれるかもしれない。

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると……。

「うわっ」「きゃっ」

 曲がり角から出てきた女子生徒とぶつかってしまった。

 二人とも弾かれたようにしりもちをついてしまった。

「いったーい! どこに目を付けて歩いてんの!」

「ご、ごめんなさい……」

 そう言ってその子は立ち上がるとそそくさと去っていってしまった。

「あれ、今の人ってわたしが見えてたのかな?」

 わたしに触れらるのはわたしが見える人だけだ。

 それにあの人にはわたしの声にしっかりと返事をしていた。

 受け答えしていたのだから非感染者であることは確かなんだろうけど、なんだかどこかで見た覚えがあるような気がした。

「誰だったっけ……竹流と関係ある気がするんだけど……」

 頭を捻っていると、ふとある物が目に入った。

 それはピンク色をしたスマホだった。

 あの子が落としたものだろうか?

 なんの気無しにそれを手に取り開いてみた。すると、

「なっ、これって……!」

 待ち受け画面に映っていたのはその子と竹流のツーショットだった。

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