第三部A面 空の繋がった日1

学校帰りの横断歩道。

 俺はそこで、彼女と遭遇した。

 反対方向から駅へと向かう彼女に手を上げようとして……やめた。

 おそらくいつものように、彼女はこちらに一瞥もくれないだろう。

 つい数ヶ月前までは俺の後ろをついて歩いてきた彼女。

 しかしいま、彼女はなにも言わずに俺の脇を通り過ぎていく。

「菜穂……俺はどうすればいい。どうすればお前に……」

 去り行く彼女の姿を思い出しながら、届くはずもないのにそう呟いた。

 挙げることのなかった右手の拳をギュッと握った。

 バシッ

 そんなとき、不意に誰かに背中を叩かれた。

 ビックリして振り返ったとき、始めに目についたのはサラサラのショートヘア。

 そして次に女子の制服が見えて、最後にそいつのにやけた笑顔が見えた。

 身長百六十前後の体で、そいつは偉そうに腕組みをした。

 俺よりも身長は低いはずなのに見下ろされている気分だ。

「相変わらずシケたツラしてるね、竹流」

 初対面の人はそれだけで魅了されそうな全開のスマイル。

 もっとも俺は額を抑えながら恨めしげな視線を送るだけだった。

「ヒカル……」

 よりによってこんなときにこいつに会うとは……。

「そんな顔してたら楽しいこともやってこないわよ。ほれ、スマイルスマイル」

「……ほっといてくれ」

 そいつが肩に置こうとした手を振り払い、俺は踵を返した。

 いまはまだ……こいつと話をする気になれなかった。

「なんだよう。あからさまに避けてくれちゃってさ……」

 そんな声が聞こえたけど、俺は無視して歩き続けた。

 居場所を奪ったヒカルを……俺はまだ許せそうになかった。

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