第3話 インカジュール王子の企み



 私はきっと、幸せだった。

 運に恵まれていた。


 本当だったら死ぬはずだったのに、偶然得るはずのない幸福を得ていた。


 だから、戸惑う事が多かった。

 こんなに幸せになっていいのだろうかと。


 それから、色んな事が順調に進んでいったが、唐突に不穏な出来事が起きた。

 ある日、私の世話を焼いてくれたファルコンが行方不明になったのだ。


 姿を見かけなくなった日から、いてもたってもいられなかった。


 だから私は、国中をかけまわって彼の姿を探した。


 心配していたその時間はたった数日だったけれど、私にとってはとても長く感じられた。


 そんな中で、見た事のある兵士が私に接近してきた。


 その兵士は前の国で共に働いていた、騎士部隊の一人だった。


 かつて同僚だった男性兵士だ。


「見つけたぞ、テイル。実はファルコンという男の身柄は我々が手にしている。無事に返してほしければ、指定の場所まで来い」


 そして、その人物は、私に人質をとっている事を告げてきた。


「ファルコン・ニス・アゲインラース王子を返してほしかったら、誰にもこのことを話さずに、大人しく来るんだ」


 そこで私は、色々な世話を焼いてくれたファルコンが、やんごとなき身分の人間だと知った。


 けれど、城に閉じこもる事が好きでなかったので、政務の傍ら、町で市民と触れあったり、旅をしていたりしたらしい。王としての仕事は上のお兄さんやお姉さんに任せているようだ。


 それで、簡単に病院で治療費を負担してくれたのには納得した。


 思えば見舞い品も豪華だったし、劇場の券もかなり良い席だった。


 私はその事実を知って衝撃を受けた。


 インカジュール王子に騙された事が、頭をよぎる。


 ひょっとしたら、ファルコンも私を騙そうとしていたのでは?


 私はどう行動すべきか迷った。


 けれど結局、彼を助ける事にした。


 もしかしたら、それはとても愚かな選択なのかもしれないけれど。


 じっとしている事はできなかった。






 同僚兵士に指定された場所に行くと、ファルコンが縄でしばられていた。

 地面に転がされていて、頬には誰かに殴られた様な跡があった。


 彼の近くには、兵士が何人もいる。


 そして、その場には、私を言いように利用していたあの王子もいた。


「よく来たな、テイル。久しぶりだね」


 私はインカジュール王子に向かって、どうしてこんな非道な事をしたのか尋ねた。

 すると、王子は話をはじめる。


 それは私が国を出た後の事だった。


 発端は、王子と想いあっていた女性、イングリット姫が原因らしい。


「お前には特別に話してやろう。あれから、とある国の姫のせいで、大変な目にあった」


 王子は私が、あの時盗み聞きしていたことを知らないのだろう。

 ところどころ、言葉を濁しながら話を続けた。


 王子が婚約をしようと思っていたどこかの国の姫ことイングリット姫は、とても大きな悪事を働いていたらしい。

 その悪事が明るみにでてしまったため、姫は断罪されてしまったのだが、話はそれだけではすまない。


 よく一緒にいたインカジュール王子も悪事に加担していたのではないかと、噂されるようになったのだ。


 王子はマイナスのイメージを払拭するため、「行方不明になっていた将来有望な騎士を発見する」といった手柄を演出しようとしていたのだ。


「どうして国に戻ってこなかったかは問わない。今なら遅くないから、こちらに戻ってきなさい。前と同じ暮らしをさせてあげようじゃないか」


 王子は優しく言うけれども、私は信じられなかった。


 おそらく、私を国に連れ戻した後は、状況を見て私に罪をなすりつけようと考えているに違いない。


 そうでなくても、のちのち都合の悪い事がおきた時に、切り捨てられる可能性が高い。


 私は当然激怒した。


 人質をとるような卑怯な人間の元へは、帰らない。


 と、そう返事を返す。


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