第2話 ファルコンとヴィオン



 失意のどん底に落とされた私は、誰かにその事を打ち明ける事もできずに、次の任務に放り出された。


 次の任務も厳しいものだった。


 国に向けてクーデターをたくらむ者達との、厳しい戦いが繰り広げられた。


 けれど、いつもなら軽々とさばける剣が、異様に重たくて、私は遅れをとってしまう。


 そして、ついに敵にやり返されて、大きな怪我を負ってしまった。


「やった、あの有名な騎士に手傷を負わせたぞ! 探せ! 弱っているうちにとどめをさすんだ!」


 生きる意味はなかったけれど、私は騎士として長年働いていたせいか、何も考えない状態でも自然に最適な行動をとっていたようだ。


 人のいない場所を探し、身を隠す場所を見つける手際は、今まで通りだった。


 しかし、傷が深かったらしい。


 重い体を引きずりながら逃走していた私の気力はとうとう尽きてしまった。


 いよいよ死んでしまうのかと思ったのだが。


 そんな私の前に、一人の男性が現れた。


「諦めてはいけない。生きるんだ」








 唐突に表れた人物は、私を助けれくれた。

 旅装束の男性だったので、どこかに向かう途中に私を見つけたのだろう。


 親切なその男性の助けのおかげで、私は戦乱の地から無事に脱出する事ができた。


 しかし、元の居場所には戻りたくない。


「君の名前を教えてほしい。俺の名前は、ファルコンだ」


 だから、身元に繋がる情報を口にすることができなかった。


 意識がないうちに、国に送り返されていたらと考えると、教える事ができなかった。


 そんな私を哀れに思ったのか、別の理由があったのか。


 本当の所は分からない。


 ただ親切な人間だという事はよく分かった。


 その日から彼は、色々と私を助けれくれるようになった。


 ファルコンの目的地である国アゲインラースに向かった後。


 大きな病院に連れていって手当を受けさせてくれたり、回復してきたら美味しい食べ物をプレゼントしてくれたりしてくれた。


 ベッドの上から起き上がれるようになってからは、大きな劇場につれていってくれて、面白い劇を見せてくれたりもした。


 短い間だったけれど、それはそれは楽しい日々だった。


 今までの私は、騎士として剣を振るうばかりだったので、そういった楽しみを経験してこなかった。

 だから新しい日々が、とても新鮮だったのだ。


 そんな私は、元の国から離れた別の国で、便利屋としてやっていく事になった。


 ヴィオンという別の名前を名乗って、小さなお店を構えたりして。


 なれない事ばかりで苦労していたが、今まで鍛えていた体が役に立った。


 新しい生活の中では、騎士として働いていた頃には経験できない事ばかりだったし、たくさんの友人もできた。


 毎日が充実していた。


 それらの縁は、全部私を助けれくれた男性ファルコンが紹介してくれたものだ。


 私は自然と、彼の事が好きになっていた。


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