第49話 気のせいじゃ……
七瀬に倣ってネット検索をかけたところ、浜名湖にはフラワーガーデンや遊園地がある事が判明した。
所詮は湖だろうという考えは一転、期待とワクワクが到来する。
夕刻より雨ということなので、構内のコンビニでビニール傘を購入してから東海道本線に乗り込む。
最寄駅である弁天島駅のコインロッカーに荷物を預けてから、フラワーガーデン行きのバスに揺られること10分強で目的の場所に到着する。
「おーー、のんびりしてて、いいな」
浜名湖ガーデンパークは、浜名湖の湖畔と開放感あふれる自然が調和した、緑豊かな都市公園だ。
日曜日ということもあって、園内はそれなりの人で賑わっていた。
お昼時ということもあり、着いて早々ひとまず腹をこしらえる流れとなった。
前提として、鰻は夜に食べようという話になっていた。
俺が目星をつけた鰻屋さんが夜営業のみだったのと、鰻はなんとなく昼じゃなくて夜に食べたいよねという双方の意見が一致した形となる。
珍しい。
お昼は今までと少し趣向を変えて、ガーデンパーク内の移動式屋台でテイクアウトすることにした。イベント会場とかで見る、車と屋台が一緒になったやつだ。
メニューは焼きそばやピザ、フランクフルトなど、ぱっと食べれてちょっとしたお祭り気分を味わえるラインナップが並んでいた。
俺はフィーリングで期間限定のマヨチャーシュー丼を注文。
お祭り気分よりも、マヨネーズとチャーシューという絶対に美味しい組み合わせを優先する。
「私も、それにするわ」
驚いた。
てっきり、『おすすめ!』のポップが踊る焼きそばとか頼むと思っていたから。
「どういう心境の変化だ?」
「なんのこと?」
「いや、今まで店の代表メニューを食べてた七瀬が、期間限定商品を選択したから」
「ああ……」
七瀬は言われてみて、そういえばそうねと気づいた様子だった。
「そういう気分の日も、あるんじゃない」
曖昧な答えだった。
また、違和感。
普段の七瀬の、堅い理性によって行われる意思決定のリソースが、別の部分に使われているような……。
「はい、マヨチャーシュー丼二つ、お待ちどうさま」
商品を受け取って、すぐ傍に設置された飲食スペースで昼食を取る。
マヨチャーシュー丼は見立て通りの一品だった。
炙りチャーシューとマヨネーズの組み合わせも、甘辛いタレが染み込んだライスも美味しい。
だが、俺の意識はどこか味に集中できなかった。
七瀬のことが気になっていた。
明らかに、言葉数が普段より少ない。
「ん……なかなか美味しいわね……」
たまにリアクションを取っていたが、いつもより箸のスピードが遅い。
朝から、胸の奥底で疼き続けている違和感。
……気のせいじゃ、ない?
空は少しずつ、薄暗い雲に覆われていった。
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