第48話 翌朝
翌日の空は、旅を開始してはじめて怪しい雲に覆われていた。
お天気キャスターのお告げによると、東海地方は夕方頃から雨に見舞われるらしい。
「よし、それじゃあ行くか!」
浜松駅の改札前。
新たな新天地へいざゆかんと張り切る俺とは対照的に、七瀬はどこか上の空だった。
「七瀬?」
「あっ、ごめんなさい……少しぼーっとしていたわ」
「寝不足か?」
「今日はきっかり7.5時間睡眠を取ったわ」
「疲れている日の睡眠時間だな。まあ、昨日は移動距離だけ見ると凄かったもんな」
加えて海で遊んだり、奏さんと色々なドラマを繰り広げたりと、何かカロリーを消費したのは間違いない。
まだ疲労が取れきっていないのだろう。
……という風に推測する一方で、昨日、七瀬の様子がおかしい気がしていた。
夕食を食べている時も、チェックアウトを済まして駅まで歩いているときも、どこか心ここに在らずというか。
なんとなくそんな気がする、の域を出ていなかったので、特に尋ねずいつものように話を続ける。
「浜松は俺がチョイスしたから、今度は七瀬の番だな。どっか行きたいところある?」
「冥土」
「そう来たか」
天国、地獄、あの世と来て、冥土か。
「現世で頼む」
俺がいつもの返しをすると、七瀬は「そうね……」とどこか憂いを帯びた表情で呟き、黙考をし始める。
その様子にふと、違和感を覚えた。
七瀬はどこに行こうか悩んでいるというより、どこかへいく事自体を躊躇っているように見えた。
気のせい、だよな?
俺の杞憂をよそに、数分のシンキングタイムの後、七瀬が要望を言葉にする。
「一昨日、ちらっと話に出た浜名湖に行ってみたいわ」
「ああ、日本で10番目に大きな湖ね」
「……その覚え方をしているということは、期待はできなさそうね」
「ごめんごめん、覚えてるって。鰻、食べに行こうぜ」
「テストの範囲は覚えられないようだけど、私との約束は覚えていたことは評価するわ」
相変わらず毒混じりで言う七瀬だったが、表情に控えめな喜の色が浮かんでいた。
良かった、いつもの七瀬だと、俺はホッと胸を撫で下ろした。
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