第43話 もやもや
那覇空港から、飛行機、リムジンバス、新幹線と乗り継いで浜松駅に戻ってくる頃には、時刻は夜の7時を回っていた。
移動疲れからか、慣れない体験をしたからか、俺の全身には鉛のような疲労感がのしかかっていた。
「あっという間だったわねー」
新幹線のホーム。
奏さんが「んーっ」と伸びをしている。
見た感じ、疲労の色は感じられない。
まだまだこれから働けますよと言わんばかりの顔色をしていた。
社畜怖い。
……ただ、気のせいだろうか。
スーツ姿に戻った奏さんは、どこか、寂しげだった。
海での生き生きとした輝きはなりを潜め、昨日居酒屋で目にした、悲壮感やら焦燥感やら、マイナス方面の感情が滲み出ているように見えた。
なんとなく、モヤモヤした。
人の波に乗った途端、現実に戻ってきたかのような錯覚を覚えた。
今日一日の出来事は夢だったんじゃないかという、錯覚。
そして、モヤモヤ。
嗅覚の奥にわずかに残った潮の香りが、沖縄の海で泳いだことの確かな証明だ。
その形跡も、ほどなく無くなってしまうだろう。
ああ、モヤモヤする。
──私のようなつまんない大人には、くれぐれもならないでね。
……ああーーーそうか。
わかった。
なんでモヤモヤしているのか、わかってしまった。
今の奏さんは……俺の10年後の姿、かもしれないからだ。
俺は、足を止めた。
「どうしたの、翔くん?」
奏さんに、俺は言った。
「改札出る前に、行きたい所があるんだけど……」
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