僕だけ使えるチート能力で幼馴染2人を破局させる話 〜さようなら、あいつと一緒になっても君は幸せになれない〜
@tiak111
さようなら
高校二年の夏のある日のことだ。
第三者からすれば今の僕たちは十分青春の一ページを謳歌している男女三人組に見えるだろう。
学校からの帰り道。
いつものように僕らは公園のブランコに揺られていた。
「あぢぃ、暑すぎ、ジャンケンで負けたやつが三人分のアイス買ってこようぜ」
幼馴染の健人がそう言った。
「いいよ、 絶対負けないからね!」
健人の提案に腕まくりを始めたのがもう一人の幼馴染の彩菜だ。
「しょうがないな。いくよ、じゃんけん……」
そして僕、新藤未来(しんどうみらい)。
学年一のイケメンと美少女の二人を幼馴染に持つ何の変哲もないただの凡人だ。
ただ一つ。
特別な〝力〟を持っていることを除いては。
「「「ぽん!!!」」」
ジャンケンの結果は健人の一人負け。
くっそー、と悔しそうに捨て台詞を残して健人は最寄りのコンビニへと向かっていった。
彼が負けてしまうのも無理はない。
僕は健人がグーを出すことを知っていた。
なぜなら僕には未来が〝分かる〟
断片的な事に限定されるが、特に幼馴染の二人の事に関してはよく〝分かる〟のだ。
「あのさぁ未来、ちょっと相談があるんだよね」
だから彩菜が今から話す相談の内容も、僕には分かっている。
「健人のことだろ」
「えっ、どうして分かったの……ウィスパー?」
「僕はそんなに囁き声で喋ってない。それを言うならエスパーだ」
「そうそう、キャスパー!」
「僕は妖怪じゃない。彩菜が健人の事を好きなのは、見てれば分かるよ」
彩菜はうぅ、と呻き声を上げながら赤面した。
「そんなに私、分かりやすいかなぁ」
「小学生の時にはもう好きだっただろ」
「すごい、やっぱり未来はキーパーだね!」
「僕はゴールなんて守ってない」
恥ずかしがり屋の彩菜は健人に告白こそしていないけれど、実は二人は既に両思いだ。
それは僕が未来が分かるがゆえに知り得る情報ではない。
ずっと彩菜と健人の側にいれば嫌でもわかる。
彩菜も健人も、お互いに惹かれ合っている。
僕の気持ちは、永遠に報われない。
……普通のやり方であれば。
「僕が二人の仲を取り持つよ」
「ほんとに!?協力してくれるの?」
「もちろん。二人には幸せになって欲しいからね」
「やったー! ありがとう! 未来だいすきっ」
彩菜が言う『だいすき』。
それは決して異性として、一人の男性に対して向けてのものじゃない。
僕と彩菜はあくまで幼馴染。
友達以上ではあるだろう、しかし恋人未満。
いや、恋人という地位を引き合いに出すことすらおこがましい。
彩菜の『大好き』は健人に向けられるべきものなのだ。
それを僕はよく知っている。
だからこそ、僕はその恋路をぶち壊す。
「僕に考えがあるんだ、少し任せてくれないかな」
「うん! わかった」
彩菜は僕のことを信頼してくれている。
僕が今まで彩菜に対して不利益を被ることなんてした試しがないからだろう。
「色々決まったらLINEするよ」
「……恥ずかしいから健人にはバレないようにしてね?」
「大丈夫だよ、僕に任せて」
その後、健人が買ってきたラムネバーを三人仲良く食べた後に僕たちは帰路についた。
彩菜を家まで送った後。
僕と健人は二人で電車に揺られていた。
「健人、話しておきたいことがあるんだ」
「お、どーしたん?ついにコレ?」
健人は笑いながら左手の小指を立てる。
「違う、僕じゃない。健人のことだよ」
「俺彼女なんていねーぞ?」
「知ってるよ。彩菜のことだ」
彩菜の名前を出した瞬間、健人は少し真剣な顔付きになった。
「彩菜が……どうしたんだよ」
「いい加減に認めたら?健人がいつも女子からの告白を断ってるのはさ、彩菜のことが好きだからだろ」
「お前……」
学年一のイケメン。
その称号は伊達じゃない。
健人は一年生の時から毎週のように女子から告白されては、それを断り続けている。
「僕たちだって来年からは受験で忙しくなる。今年の夏休みが遊んでいられる最後の長期休暇だ。それを彩菜と二人で、特別な関係を築いてたくさんの思い出を作らなくていいのか?」
「だけどお前はどうなんだよ未来。お前だって彩菜のことが……」
幼馴染の称号も伊達じゃないらしい。
健人も気付いているのだ。
僕が彩菜に対して好意を抱いていることに。
「あぁ、そう言えば僕彼女が出来たんだ、隣のクラスの相沢さん」
はい、と僕が相沢さんと二人で笑顔で映っている写真を見せると、健人は猜疑的な表情を浮かべながらも納得したようだった。
「俺、勘違いしてたぜ。お前はてっきり彩菜のことが好きなんだって」
「違うよ。僕と彩菜には何もない」
「じゃあ俺はお前に遠慮しなくていいんだな?」
「もちろん。この夏に二人が付き合えるよう、僕も出来る限り協力するよ」
嘘だ。その全く逆のことを僕は企てている。
「俺、彩菜の事がずっと好きだったんだ。だけどもしお前も彩菜が好きだって考えたら言えなくてさ……」
「健人は心配性だね。大丈夫、この事は僕と健人の秘密だ。彩菜にはバレないように、まぁバレても問題ないだろうけど……」
「ま、待てよ! 彩菜には俺から言わせてくれ」
「オッケーオッケー。じゃあセッティングは僕に任せてよ。今週の日曜日、いつもの公園で。僕が指定しないといつまでも二人の仲が進展しそうにないからね」
「お、おう……分かった」
……よし。
上手いこと丸め込んだ。
ここまでは計画通り。
「……ありがとな、未来。俺が彩菜と付き合えたとしても友達でいてくれるか?」
「もちろんだよ。僕たちはいつまでも仲良しな幼馴染なんだから」
やがて電車は健人の家のある駅に到着し、僕らは別れた。
今日はもう一つ、やることがある。
「……こんなので本当に一万円もくれるわけ?」
「ありがとう相澤さん。大丈夫、約束通りに写真は目の前で消去するよ……それからもう一つだけ頼んでもいいかな」
協力者の相澤さんは僕から謝礼を受け取ると、人目を憚るようにして駅から去っていった。
相澤さんが援助交際をしている事を僕は知っている。
万札をぶら下げてやればツーショット写真を撮るくらいの事は喜んでやってくれたわけだ。
それから日曜日当日を迎えた。
健人には僕が彩菜を呼び出すと言って、先に彩菜だけをいつもの公園に呼び出しておいた。
あと10分もすれば遅れて健人もやってくるだろう。
「お待たせー、今日も暑いね」
彩菜が公園にやってきた。
ここが勝負所だ。
大丈夫、僕ならやれる。
「急に呼び出してごめんね。実はこの後、健人も来るんだ」
「えっ! そうなんだ」
彩菜には健人の事で話があるとしか伝えていない。
「それで……実は彩菜に謝らないといけない事があって」
「なになに改まって、こわいよ〜」
「健人にさ……うっかり言っちゃったんだよ。彩菜の気持ちを」
「えっ……」
彩菜はかなり驚いている。
無理もない、その事は健人に秘密にしている約束だったのだ。
もちろん僕は彩菜の好意を健人に伝えていない。
これは嘘だ。
「だけど満更でもなさそうだったからさ、今日ここに健人を呼んだんだ。彩菜の気持ちに応えてくれるならここに来てくれってね」
「そ、そんな急に言われても、私、心の準備が……」
「準備期間なら今までたくさんあっただろ?小学生の時からずっとね」
「う、うん……」
どうやら僕の行動には怒っていないらしい。
彩菜は完全に僕が味方だと信じ切っている。
僕が裏で何を企んでいるかなんて知りもせずに。
スマホで時間を確認する。
約束の時間まであと5分。
息を殺すようにして待つ。
そしてスマホにメッセージを知らせるポップアップが表示される。
【準備できた、あと1分もしない内に到着する】
相澤さんからだ。
よし。手筈は整った。
「彩菜」
「未来……どうしたの」
僕は彩菜の肩を掴む。
そして僕の方を向くように力を込める。
華奢な彩菜の体が微かに震える。
同時に僕は遠目で公園の入り口を確認する。
来た、健人だ。
その後ろを指示通りに相澤さんが尾行している。
「彩菜、僕は君が好きだ」
「えっ……んっ……!」
間違いなく健人の視界に映るように。
僕は彩菜の体を強く掴んで一方的にキスをした。
「……んっ……!未来っ……」
離れようと彩菜はもがくが僕はそれを許さない。
許すものか。
僕はずっとこの時を待っていた。
健人の前で僕と彩菜のキスを見せつける、この日を。
ドサッ、と公園の入口の方で健人の鞄が落ちた音がした。
「嘘……だろ」
健人は呆然と立ち尽くしている。
「ちょっと未来っ……」
彩菜がそれ以上喋らないように。
もう一度健人に見せつけるように僕は彩菜の唇を塞いだ。
そして彩菜の耳元で囁く。
「見てごらん彩菜。君との約束なんかよりも健人は他の女の子を選んだみたいだよ」
「えっ……?」
僕が指さす方、公園の入り口だ。
健人と、横に立つ相沢さんの姿が彩菜の視界には映っているだろう。
「健人くん、お待たせー!」
「あ、相沢!?おいっ」
有無を言わさず相沢さんは健人の腕を掴んで僕らの視界の外に消えた。
彩菜の主観からすれば、2人がここで待ち合わせをしていたように見えてもおかしくないだろう。
「そんな……」
彩菜もまた、去り行く健人の姿を見て茫然としていた。
それから彩菜は、その瞳に確かな怒りを灯して僕の頬を平手打ちした。
パチン、と乾いた音が鳴った。
「……初めてだったのに、何で、こんなこと、それに健人も……」
「ファーストキスなことくらい知ってるよ。健人は相沢さんと付き合っていることを彩菜にも教えたかったのかな」
「っ!」
彩菜の表情には確かな怒りに加えて、僕に対する嫌悪も浮かんでいた。
「二人とも……最低、意味わかんないよっ」
吐き捨てるようにそう言って、彩菜は公園から去っていった。
一人公園に取り残された僕は、これでようやく全てが始まったことを実感していた。
そう、これは始まりに過ぎないんだから。
あの一件以来、彩菜は僕と健人から距離を取るようになり。
健人もまた僕と彩菜から距離を取るようになった。
小学生から高校二年の今まで、僕たちはたまに喧嘩することはあってもずっと仲の良い幼馴染三人組だった。
僕たちの関係は僕の行動によって完全に崩壊したのだ。
そして僕たちは高校を卒業して、完全に繋がりを絶った。
時は経ち、高校卒業から13年後。
つまり僕の31歳の誕生日を迎えていた。
SNSを経由して彩菜と健人の二人がそれぞれ違う相手と結婚したことを知ったとき、ようやく肩の荷が下りた気持ちになった。
僕は、やり終えたのだ。
☆
僕はその時を迎えていた。
僕の寿命は31歳の誕生日である今日だ。
僕はそれを知っていた。
輪廻転生、という言葉をご存じだろうか。
魂の循環。
もっとわかりやすく言うのであれば生まれ変わり。
僕の主観で1回目の人生において、31歳の誕生日を迎えた時に僕は死んだ。
死因は交通事故。
大型トラックの信号無視によって僕はあっけなく死んだ。
そして初めて肉体が死を迎えた時に、僕は僕から僕への生まれ変わりを体験した。
死をきっかけにして高校二年生のころにタイムリープしたと言ってもいいだろう。
生前の記憶を保ったまま、セーブ地点からやり直すように僕は高校二年の夏に戻っていた。
それが分かったときに僕は狂喜した。
僕にはどうしても変えたい未来があったからだ。
1回目の人生、それを正史と呼称する。
正史において、彩菜と健人は高校二年の夏休みをきっかけにして結ばれることになり、そのまま彼らは23歳の時に結婚する。
しかしそれから6年後、健人の度重なる不倫とDVによって心を病んだ彩菜が自殺する。
僕たちは正史では仲の良い幼馴染のままだったのだ。
二人の結婚式にも僕はもちろん参列していたし、悲しいことに彩菜の葬儀にも参列していた。
僕が変えたい未来、それは彩菜の死だった。
そのためにまず健人の不倫を僕は未然に防ごうとした。
僕は健人にも彩菜にも、幸せになってほしかったのだ。
しかし結論から言うとそれは失敗する。
人が人に抱く気持ちを簡単に変えることは出来なかった。
健人は僕にこう言った。
「不倫される方にも問題があんだよ、結婚したことのない未来には分からねえ」
ふざけるなと思った。
お前のせいで彩菜は心を病んで死に至る。
僕がそれを必死に主張しても健人は聞く耳を持たなかった。
その後僕は彩菜にも会った。
彩菜は生気のない瞳で僕に一言ただこう言った。
「3人で仲良く過ごせたあの夏に戻りたい」
それから一週間後、彩菜は自ら命を絶った。
そして31歳の誕生日を迎えた僕もまた命を落とすことになる。
死因は通り魔による殺人。防ぎようがなかった。
そしてまた、僕は高校二年の夏に戻っていた。
死によって高校二年の夏に戻ることが出来る。
それが僕に与えられた力だった。
出来ることは何でもやった。
全て悪いのは健人だと分かっていても、僕は健人と彩菜の二人で幸せになってほしかった。
何度彩菜と邂逅を果たしても、彩菜はただ
「健人は何も悪くない」
とうわ言のようにそう繰り返すだけだった。
彩菜の健人に対する気持ちを最大限に汲み取ってあげたかった。
どんなに酷い仕打ちを受けても、彩菜が愛するのは健人ただ一人なのだ。
僕だってそうだ。
子供の頃からずっと一緒だった大親友の健人を愛している。
だからこそ、彼を正してあげたかった。
ただ何度僕が人生をやり直そうとも、まるで運命に定められているかのように健人の非道は避けることができず、その度に彩菜は命を落とした。
もう何度目の繰り返しになるかも忘れたころ。
僕が思いついたのは幼馴染3人の関係性を完全に崩壊させることだった。
高校二年の夏。
そこで彩菜と健人が付き合わなければ、2人は結婚しない。
つまり彩菜が死ぬことはない。
そして健人が非道に走ることもない。
苦渋の決断だった。
どうにかして彩菜と健人の二人が幸せに寄り添える道を探したかった。
だけど僕にはそれが出来なかった。
一度は僕が彩菜を幸せにする道も考えた。
それが出来ればどんなに良かっただろう。
だけど僕は、彩菜の健人に対する愛を知っているのだ。
僕は健人の代わりになんてなれなかった。
そしてようやく今回の夏。
僕は彩菜と健人が結婚する因果そのものを排除し、こうして死期である31歳の誕生日を迎えていた。
どうやら僕がこの日に死ぬというのは、絶対に変えることのできない未来であるらしい。
過去の経験で僕はそれを知っていた。
彩菜と健人の二人ともが、違う誰かと結婚する。
今回の人生で僕はそれを成し遂げたわけだが、果たしてそれで良かったのだろうか。
それは分からない、だけど。
彩菜の死の運命を確かに変えた。
僕にはそれで十分だった。
「彩菜……健人……」
ずっとずっと、三人でいたかった。
仲の良い幼馴染のままでいたかった。
こんなやり方しかできなくて、ごめん。
だけど、どうか。
「幸せに、なって」
さっきから強烈な睡魔が僕を襲ってきている、逆らえそうにない。
このまま僕は死ぬのだろう。
また次の夏が来るのだろうか。
ああ、もしもまた夏が来るのなら。
どうか、3人で楽しく過ごせる夏が来ますように。
僕だけ使えるチート能力で幼馴染2人を破局させる話 〜さようなら、あいつと一緒になっても君は幸せになれない〜 @tiak111
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