第9話 幸福な人生
しかし、見つかったのはそういった「まぎれもない被害者」だけではなかった。
「なっ、お前は! 宝石を出す娘! 姿が変わっていても分かるぞ! 長い間顔をあわせていたこの私にはなっ!」
そこには、私を見世物にしていた要人達も捕まっていたのだった。
どうやら私の事を良く知る人間には、素人の変装など意味がなかったらしい。
それは今後の課題になるだろう。よく考えなければならない。
捕まっていた要人達は、私達に向けて必死に言葉を続けていく。
「私を助けろ! また美味しい餌を与えてやる! 良い生活を与えてやるぞ! そんなみすぼらしい姿をするなんて、よほど貧乏な飼い主に拾われたに違いない。ははっ、この幸運に感謝するんだな!」
彼等は、街道を移動している時、盗賊に襲われたらしい。
国と国の交渉事のために、馬車で移動している時を狙われたようだ。
泥にまみれた服をまとい、やせこけた頬をした彼らの姿は、哀れみを誘うほどだった。
だからといって、優しい言葉をかける気にならないのは、先ほどの言葉を聞いてしまったからだろう。
そこで我慢の限界が来たらしい。
騎士の男性が彼らに剣を向けた。
「悪いが俺は元傭兵だ。綺麗事ばかりでは生きられない事を知っている。お前達はこの娘の正体に気が付いた。なら、盗賊同様に命を捨ててもらうぞ。生かしてく事はできないからな」
「そんなっ! おかしいだろ! どうしてそうなる! 私達は正しい事を言っているだけだ! おいっ、お前、宝石の娘! 私達を助けろ! この騎士に何とか言ってくれ! そんな変装をして、美しい見た目を騙して何のためになるというのだ!」
彼らは最後まで、自分達のやっていることが、良い行いだと思い込んでいたのだろう。
「君に残酷な場面は見せたくない。後ろを向いていてくれないか?」
「分かりました」
要人達はおそらく、騎士の男性が剣を振るうまでずっと、信じられないという顔をしていただろう。
その後、私は使用人としての地位を確たるものにして、後輩の指導を行うようになった。
それに加えて、身寄りのない女性達の手助けをする仕事にも就く事に。
騎士の庇護の元ではあるが、その日々はとても充実していた。
ずっと誰かに助けられるばかりだったが、私は誰かを助ける事ができるまでになったのだ。
いつものように、屋敷で使用人の仕事をこなしていると、騎士の男性がやってきた。
「仕事の様子はどうだ?」
「順調です。どちらの仕事もうまくいっていますよ」
「それは良かった。でも油断しないでくれ。もう、盗賊に攫われるようなことは起きてほしくないからな」
「はい、わかっています。変そうもあれから少し工夫しましたから」
「それならいいんだ。俺は、大切な人には、ずっと笑顔でいてもらいたいから」
「それって」
「いや、こちらの話だ。今は一人病気で寝込んでいるそうだな。仕事がいそがしいだろう、頑張ってくれ」
宝石を出す力に目を付けられて利用され続けた私の人生だけれど、親切な人の元でお世話になっているので、幸せです。
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