第7話 ルティナスとしての人生



 数週間後。

 髪を染めた私は、平民の姿に変装して屋敷を離れた。


 たくさんの思い出の詰まった屋敷、やっと帰ってこれた家を離れる事は悲しかったが、恩人の役に立ちたいという想いが強かった。


 両親に見送られながら旅だった私は、いくつもの馬車を乗り継いで、異郷へ。


 そこで、私を助けてくれた騎士の男性の元へたどり着いた。


 手紙であらかじめ用件を伝えられていた彼は、私を優しく迎え入れてくれた。


「お嬢様としての生活を捨てる事になるのは大変だけれど、その決断を尊重する。ようこそ。これからもよろしく」


 私はその日から、平民の女性として、身元を伏せながら生きる事になった。


 名前も変えて、ルティナスと名乗るようにした。


 平民の生活と貴族の生活は違う。


 最初は勝手の違う生活に戸惑ってばかりだったけれど、周りの人達は良い人ばかりだったためすぐに慣れた。


 もともと盗賊団の元にいた時の環境が劣悪だったため、その経験も役に立ったのだろう。


 元の身分が貴族だったとは思われもしなかったようだ。


 同僚達には、ある程度の話はしてある。


 長い間盗賊の被害にあっていたという話だけは、偽りなく述べる事ができた。

 なので、少しばかり社会経験が欠如していても、おかしいとは思われなかったようだ。


 それからしばらくは穏やかな日々が続いた。


 時折り、騎士の男性が仕事場を訪れて、様子を見に来てくれた。


「調子はどうかな」

「みなさん良い人ばかりで、毎日が充実しています」

「それは何よりだ」


 両親とは簡単にはあえなくなってしまったけれど、たまに手紙のやりとりをする事ができた。


 平民としての毎日は忙しい時もあったけれど、まぎれもなく幸福な生活だった。


 しかし、それでもたった一度だけ危ない目にはあった。


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