第5話 自由へ向かっての逃走
盗賊達の元にいた頃は、自分の心を信じられた。
怒りや憤り、不安があったものの、それらを偽る事なく過ごす事ができた。
けれど、新たな生活の中では心を砕くようなものばかりがあった。
表面上は暴力を振るわれているように見えないし、豊かな生活を送っているように見えたため、何も知らない人々から敵意を向けられたことがあった。
それが私には、とてもつらく感じた。
「見世物になるだけで生きていけるなんて、なんて羨ましいんだ」
「幸運な娘だな。あんな見た目に生まれただけで、食事も居場所も与えてもらえるなんて」
「自分は何もせずに、だらだら過ごしているだけなんだろ? いいご身分だよな」
美術品として美術館に飾られている時に、ショーケースをたたき割って私に詰め寄り、恨み言を吐いてきた男性もいた。
その人は、ボロボロの服を来て無精ひげを生やした、やせこけた男性だった。
どこからか不法侵入したらしい。
「どうして富める者はそんなに多くの物をもっているんだ。俺達は、明日生きていくのもやっとだというのに!」
警備員に引きずり出されていく時の、あの男性の顔が忘れられない。
私はそんな環境から自分を守るために、心を閉ざすようになっていった。
けれど、私の不幸はそこまで。
どこかの犯罪者集団が、美術館を標的にしたらしい。
後から聞いた事だが。
その事件は、国の要人達の腐敗を嘆いた者達の抗議活動だったようだ。
その集団がしかけた爆発物によって、建物の各所を破壊するような爆発が起きた。
私はその混乱に乗じて、逃げ出すことに成功。
すっかり飼いならされて氷のように凍てついてしまった心にも、自由に対する渇望があったらしい。
私は無我夢中だった。
制止する警備員の手をくぐりぬけて、走り続けた。
当てもなく逃げていた私は、嫌な事ばかりだったその国を出て、そして偶然にも昔助けてくれた傭兵に出会う事になった。
彼はあれから別の国に行って、そこで地位を手に入れて騎士になったようだ。
立場と権力と名誉を手に入れ、恵まれた生活を送っていたらしい。
彼は私を見つけた時に、見返りを求めることなく手を差し伸べてくれた。
かつてと同じように。
「どうして助けるのかって? 困っている人を助ける事に見返りを求めてしまうと、何よりも大切な自分の心が汚れてしまう」と、そう言いながら。
それから、色々な事を話した。
その後彼は、私を故郷まで送り届けると申し出てくれた。
自分が送り届けた国で、私がひどい目に遭った事を気にしていたのだろう。
「君を送り届ける先をしっかり考えていれば、不幸な目に遭わせることもなかっただろうに。本当にすまない」
私は気にしないでほしいと言った。
盗賊達から助け出してくれなかったら、命の保証はなかったかもしれないのだから。
「ありがとう。送り届けた後にもし何か困った事があったら、遠慮なくいってほしい。力になろう」
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