10話.[安心できたのだ]

「はい」

「ありがとな」


 バレンタインデーだったので和彦君にチョコレートを作って渡した。

 地味に母がいない時間でしか作れなかったから大変だった。

 姉もいい笑みを浮かべて受け取ってくれたから満足している。


「美味いな」

「あ、愛情を込めてる、から」

「はは、無理するなよ」


 言ってしまえば市販のチョコが既に美味しいからだ。

 レシピだって調べればすぐに出てくるから誰だって美味しく作れる。

 本を買わなくてもいいのは大きい。

 ああいう本は地味に高いからお財布が冬の気温みたいに寒くなってしまう。


「そうだ、もうすぐ誕生日だけどなにか欲しい物とかあるか?」

「あるわ」

「お、珍しいな」


 そう言ってくれるだろうと思ってずっと考えていた。

 そのせいで授業にあまり集中できていないものの、休み時間も考え事をしていることで教室から逃げなくても大丈夫なようになっていた。

 あくまで頭の中がごちゃごちゃだからできていることだけど、それでも逃げずに済んでいることは大きいのではないだろうか。


「よし、言ってみてくれ」

「あ……えっと」

「ん? どうした?」


 馬鹿なことを言おうとしているのは分かっている。

 ただ、あのとき拒んでおきながらなんだけど毎日抱きしめられて終わるだけのそれに物足りなさを感じ始めてしまってきているのだ。

 

「私達って付き合い始めてからもう一ヶ月は経ったわよね?」

「ああ、クリスマスからだからもう一ヶ月半になると言ってもおかしくはないけどな」

「でも、抱きしめることはあっても……その」

「あ、そういうことか」


 ……なんか淫乱女みたいで恥ずかしい。

 でも、彼はしたがっているわけだからどうせいつかはすることで……。


「分かった」

「え、ええ」

「じゃ、とりあえずいまはゆっくりするか」


 友達、幼馴染として一緒にいた時間よりも長いものにしたいから焦っては駄目だ。

 そういう点ではいまの要求はいいのかどうか分からない。

 が、臆してばかりでは結果的に悪くなりそうだからこういう感じでいればいいと考える自分も確かにいる。


「そういえば明日香にはあげたのか?」

「ええ、あげたわよ?」

「寺本には?」

「月曜日に渡す約束をしているの」

「ふーん」


 直人君にもお世話になったからなにかお礼がしたかった。

 ほとんど市販の力だけどこれで少し返せたことになればと考えている。


「そのときは俺も付いていくわ」

「ええ」


 なにかいけないことをするというわけではないから全然構わなかった。

 多分彼的にはなにかがあると疑っているんだろうけれど。

 でも、嫉妬というか、興味を示してくれているようで安心できたのだった。

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69作品目 Nora_ @rianora_

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