09話.[変える気はない]

「直くん」

「あれ、今日は明日香さんだけなの?」

「うん」


 本当は今日もここに行こうとしていた。

 そこを私が止めてひとりで来た形となる。

 なんだか麻美や和くんを見ていたら影響を受けてしまったのだ。


「私、昔は和くんが好きだったんだけどさ」

「だろうね、和彦君は優しいから普通だと思うよ」

「でも、なにもかも麻美に負けちゃったんだよね」


 ……当時は少しだけ嫉妬したことがある。

 それで厳しく当たっちゃって麻美を泣かせ、和くんを怒らせたことがあった。

 そのことがあってから無理だって、いや、やめた方がいいと思った。

 自分の思い通りにならないからって八つ当たりなんてださすぎる。

 だから似たようなことをしてくる人間にはあのときの和くんみたいに対応しているのだ。

 それで妹を泣かせたお前が偉そうに言うなって知られていたら言われちゃうだろうけど。


「あ、もしかしてあのふたりに影響を受けてしまったとか?」

「鋭いね、うん、そうだね」


 男の子なら誰でもいいわけじゃない。

 これでも麻美よりもガードは硬いと思う。

 というか、麻美よりも男の子が近づいて来る機会が多いから嫌でもそういう風になってしまうという感じだった。


「アホらしいかもしれないけどさ、僕は付き合うなら結婚する前提でしたいんだよね」

「結婚、か」


 それはまた……いまいち想像できない世界の話だ。

 それでも付き合うということは色々相手に許すということだから気持ちは分からなくもない。

 キスやそれ以上のことをしておきながらすぐに別れましたじゃ後悔するだろうから。


「もしかしたらいまの時代には合っていないのかもしれないね、告白されたときにそれを言うとなんだこいつって感じの顔になるから」

「でも、間違っているわけじゃないでしょ」

「僕はそう思っているよ、これからも変える気はない」


 影響を受けて相手に対してそういう風に接するのも失礼かと改めた。

 もっと自然に、誰かと一緒にい続けて自然に出てしまうぐらいじゃないとそれは無理だ。


「ごめん、忘れて」

「はは、僕はまだなにも言われてないよ?」

「ありがとう」


 正直に言って恋より麻美といたかった。

 和くんと付き合い始めてから話す機会が減ってしまっているから普通に寂しい。

 ご飯だってほとんど一緒に食べられていないし、寝る前のお喋りの機会すらないから。

 それにまだまだ誤解されたままだからそれも悔しかった。

 あの頃以外は当たったことなんてないし、麻美相手になにかを言ったりはしていない。

 いやもう本当に変な感情は抜きに大好きな妹といたかった。

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