四十九話:属性付与ってどうやるの?


 もう一度土壁を作ってみる。

 今度もひゅーっと吹いた風がコロコロと崩れた土壁の欠片を転がして、土壁を作っていく。

 細い蔦がぐーると巻きついて、完成! やった!

 今度はすぐに崩さないよ!


 土壁の周りを回って、すこし観察。

 うーん、背はメラニーよりも低いかな?

 たぶんさっきと同じ高さだね。

 厚さは……僕の前足が三つ分くらいかな?


 僕が壁に足で触れると、ぽろっと壁から土が落ちた。

 あんまり丈夫って感じじゃなさそう。


「百、あたしより低いから……百二十か三十センチ? 厚さは……五、六センチかな。それに、ひゃ~ちょっと心配な強度かも」


 僕に続いてメラニーも壁に触れると、乾いた土がメラニーの触れたところから、次から次へと落ちていく。


『ぽろぽろー』


「ポロポロだねー」


 この壁の形を変えてもさっきと同じだと思うから、今度は思いっきり飛び込んでみようかな?

 うん! もしかしたら、見た目よりも丈夫かもしれないしね!


 思いついたらすぐに行動!

 えいやっと土壁にたいあたり!


 ボッッフン! ボトボトトー!


 体に壁が当たった感覚がすぐに消えて、壁の向こう側に立っていた。

 僕のうしろで、穴が開いた土壁がその形を保てなくなって、崩れ落ちた。


 うーん、見た目通り丈夫じゃないみたい。

 でも、土壁が崩れて起きたこの土煙は……はっくっしょん! 結構すごい……はっくしょん! くしょん! 目もちょっと開けているのつらいかも……はっくしょん!


 ごほっ、ごほっと音が聞こえる。

 ふり返れば、メラニーが袖で口と鼻を隠しながら咳をしていた。


『ごめんね大丈夫ー?』


 急いでぐっとしてぽんした魔力の球で風を起こし、土煙をよそに流していく。


「もー、何かする時はさきに言ってね?」


 すこし目元に涙があるけれど、メラニーは許してくれるみたい。


『わかった!』


 今度から周りに気をつけないと!

 よーし! しっかり気をつけながら、形を変えても崩れない壁を作るぞー!

 でも土壁を好きな形に変えるためには、どうすればいいんだろう?

 やっぱり、お水かな?

 それとも、もっとたくさんの土かな?

 両方やってみよう!

 まずはお水から!


 鼻先に魔力をあつめて、ぐっとして……。

 思い浮かべるのは、さっきと同じ蔦が巻きついた土壁。

 でも、このままだと形を変えようとするとまた崩れちゃう。

 だから、お水をかけて、しっとりさせる!

 でも、どのくらいのお水でしっとりするかな?

 中までしっかりしっとりしないと、だもんね。

 たくさん! にしよう!


 ぽんっ! と僕の鼻先から出た魔力の球が形を変えて、人の頭よりすこし大きい水の球が地面からすこしだけ浮いて現れる。

 そこにひゅ、ひゅ~とすこし弱めな風が吹いて、コロコロとさっき崩れた土壁の土達を水の球の下まで運んでくる。

 運ばれた土を水の球がまるで拾う様に取り込んでいく。

 どんどん土をふくんですっかり泥になった水の球が壁の形になると、ぴょこっとさっきよりもすこし色がいい蔦が伸びて、ぐるーん! と壁に絡みついた。


 なんだかさっき土壁を作った時よりも風が弱いからか、壁が出来るまですこし遅い気がするけれど、なにはともあれ出来たー! やったー!

 どうかな? ちゃんと形を変えても崩れないかな?


 いつも透明な壁を横に伸ばすように、土壁――じゃなくて泥壁? を伸ばしてみる。

 ぐにょーんと泥壁が横に伸びる。

 その代わりに壁の高さがぐっと低くなる。


 伸びるけれど、さっきの土壁よりも高さが低いし、伸ばすと壁と言うより、段差になっちゃう。

 それに、厚さも薄くなっているみたい。

 蔦はびーんと伸ばされて、もうすこし伸ばしたら切れちゃいそう。


 高さと厚さをそのままで、横に伸ばすのは出来ないのかな?

 やっぱり、泥が足りないってこと?


 試しにまた新しく泥を作って、足してみる。

 すると、壁の高さはすこし上がって、すこしだけ厚くなった。


 やっぱり泥を足さないとダメみたい。

 これなら、たくさん土があっても同じだろうし、泥壁の方がお水で繋いでいる分伸ばしやすいかな。


 ……あれ?


 そういえば、属性ってものがあって、それによって色がわかれているんだよね?

 たしか風が青で、炎は赤? 土は黄色、なにかと光は白で、水は黒の色だっけ?

 僕が緑色にしたいって時に、メラニーが土と風って言っていたから、土の黄色と風の青は混ざるんだよね?

 でも、さっきの土壁は蔦だけしか緑色じゃなかったし、土と風と水を混ぜた泥壁は、黒というよりもこげ茶色。

 これってちゃんと属性付与? 出来ているのかな?

 うーん、ひとりで考えていても仕方がないし、こういう時はやっぱりメラニーに聞いてみよう!


『ねぇメラニー! これってちゃんと属性付与出来ているのー?』


「属性付与?」


 メラニーの足元に近づいて聞いてみると、メラニーは不思議そうに首を傾げた。


『うん!』


「属性付与なら出来てないよ。砂壁サンドウォール泥壁マッドウォールっていう普通の魔法」


 そう言って、メラニー首を横に振る。

 首を傾げる時もそうだったけれど、メラニーが動くと頭の上のさんかくな帽子も動くから、なんだかおもしろい。

 それはそれとして、普通の魔法がなんなのかわからないけれど、属性付与は出来ていないみたい。

 さんどうぉーる? と、まっどうぉーる? だとわかりにくいから、土壁と泥壁って呼ぶことにしようっと。

 うーん。それにしても、属性付与ってどうやってやるんだろうね。


「一度やってみようか?」


 頭の上からの言葉に、メラニーを見上げる。

 うしろから夕焼け石の光で照らされたメラニーは、輝いて見えた。


 そうだよね! わからなかったらわかるひと、出来なかったら出来るひとに、教えてもらえばいいんだよね!

 メラニーに『うん!』と頷くと、「ちゃんと見ててね」とメラニーが杖を前に構える。


「障壁に風の属性付与をするよ。鷲の羽ばたき、型へはめ、隔てよ――祖の翼・障壁フレースヴェルグ・フリューゲル!!!」


 メラニーが持つ杖が白い青の光を帯び、その先から魔力がメラニーの前へと放たれる。

 魔力は宙に溶け込み、一つの大きなつむじ風を起こすと、まるでなにかにまるめられている様に、つむじ風がまるくなっていく。

 すっかりまんまるになると、つむじ風というよりは、白く曇ったまるいなにかに見えてくる。

 さらに形が変わって、さっきここに来る時に見た縦に長い四角い壁になると、メラニーが杖の先から青く光る魔力の球を出した。

 その青い魔力の球が壁の周りを覆うように広がると、壁全体をうっすら青く光らせ始める。


「これが属性付与! わかった?」


 腰に手を当てて、なんだか誇らし気なメラニー。

 でも、風がびゅーってなって、くるくるってまるまって、ぐにょーん! と壁になるだけでもすごいのに、ちゃんと属性付与も出来るんだから、とってもすごいよね!


『うん! すごかった!』


 僕がそう返すと、メラニーはさんかく帽子のツバを右手でぐいっと下げた。

 顔が見えなくなっちゃったけれど、なんとなくよろこんでいる気がする。


 メラニーがよろこんでくれて、僕もなんだかうれしい。

 メラニーの周りを走ったり、くるりとその場で回ったり。

 しばらくそんなことをしていたら、すこし疲れちゃった。


 あ、そうだ!

 メラニーはもうしばらくお話出来なさそうだから、またお話出来るようになるまで、属性付与がされた壁を見てみようっと。


 メラニーが作った壁に近づいて、じっくり見ていく。

 僕の土壁や泥壁よりも高い!

 でも、厚さはすこしうすいかな?

 でもでも、とっても丈夫だね。足で押しても動かないや。

 足で触れたついでに、壁の中も見てみる。

 壁に意識を向けると、魔力どうしを結びつけている縁が見えてくる。

 うん。縁の並びもとっても綺麗だし、こうやって近くで見ると、白く曇った壁に青い光が混ざってなんだか綺麗。


――って、もしかして、大きなミミズさんに教えてもらった魔力の膜を壁に使えば、僕にも属性付与が出来る?

 やってみよう!


 魔力を鼻先にあつめて、まだしっかり残っていた泥壁に向かって放つ。

 土と風を頭に思い浮かべて放った魔力の球は、緑というよりも黄緑色をしていて、泥壁にぶつかるとふにゃりとその形を崩し、泥壁を覆っていった。

 すっかり魔力の膜で覆われた泥壁が黄緑色に光り出す。


 わ! もしかして……!


「そうそう! それが属性付与! やった! 出来たね!」


 メラニーのうれしそうな声がした。

 その声のおかげでやっとあの光が属性付与が出来た証だと確信出来て、僕もうれしくなった。


 やったー!

 属性付与出来たよ!

 うれしくて、ジャンプ! ジャンプ!

 メラニーも自分のことのようによろこんで、笑っている。

 それがまたうれしい。


――って、あ!!


 すっかり忘れていたことを思い出して、立ち止まる。

 急に止まった僕に、メラニーが不思議そうな視線を向ける。


『壁の形を変える練習!』


「あ!!」


 メラニーも忘れていたみたい。

 ……あれ? でも、さっきメラニーが作った壁――えっと、フなんちゃら・かんちゃらは、最初の壁を作る時にちゃんと形を変えられていたよね?

 どういうことなんだろう?


 …………まあいっか!

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