若葉のカムイ 第一章:東へ
☀シグ☀
四十三話:暑い荒野と小さなミミズさん
上は雲一つない空。
下は深くひび割れた大地。
見渡すどこまでも、どこまでも続いているその二つの中で、僕は東に向かって歩いていた。
世界樹の森を出発してから、どのくらい経ったんだろう。
太陽はすこしうしろに傾いたけれど、まだまだ上の方にいるから、まだそんなになのかな。
すこし立ち止まって、うしろへ振り返る。
小さくなったけれど、まだまだ森の緑が見える。
それに、まっすぐ赤べえ達へと伸びる淡い緑の糸――縁も。
森のまんなか辺りに生えている世界樹も、しっかりとその姿が見える。
折れていてもまだまだ大きいから、もっと遠くに行っても、高いところからなら見ることが出来そうだね。
世界樹を見ていると、なんだか元気が出てきた。
赤べえ達があそこにいるって、わかるからかな?
赤べえこと、赤黒い毛の大きな狼を思い浮かべる。
狼さん達こと、灰色の毛の狼達のことも。
一緒に遊んでくれたし、魔法を放つ時の“ぐっとしてぽん”みたいに、いろんなことを教えてくれた。
みんな、とってもよくしてくれたな……。
森の緑が手をふっている様に、揺れている気がする。
この荒野も森も、風はあまり吹かないのに。
僕はしばらくそれを見たあと、また東へ向かって歩き出した。
元気が出たからか、足取りが軽い。
これもみんなのおかげだね!
元気がなくなった時やさびしくなった時は、高いところからあの世界樹を探すことにしようっと!
荒野をズンズンと進んでいく。
目指すのは、東にある世界樹の根っこの先端の一つ。
探すのは、その上に立つ碑。
みんなにもらった元気で、旅は順調に進んでいる……と思っていた!
どこまでも終わりが見えない荒野。
そのまんなかで、僕は暑さでフラフラになっていた。
照り付ける太陽と地面からの照り返しが、僕をじんわりじんわり焼いていく。
開けた場所だけれど、風はないから、熱がどんどんこもっていく。
口から舌を出してなんとか歩けているけれど、このままだと、こんがり焼き上げられちゃいそう。
でも走ったりなんかしたら、きっと溶けちゃう。
なにか、この暑さをやわらげることが出来ないかな。
うーん………………。
ゴソッ
ん?
ふと、耳が音をひろう。
なんだろう? 壁の向こうでした音みたいな、くぐもった音。
ゴソソソソッ
あ、この音、地面からしているみたい。
おもしろい音ー。
ボコッ
歩いている僕のすこし前の地面が盛り上がって、大きな……大きな? ミミズさんが顔を出した。
うーん、前の世界のミミズさんよりも大きいけれど、僕がこの世界で見たミミズさんの中では、小さい。
体の太さも、森で生えている普通の木より細い気がする。
ミミズさんの赤ちゃんなのかな?
『こんにちは!』
僕があいさつすると、ビクリとしたミミズさんが僕の方に顔を向ける。
わぁ! お話が出来そう!
うれしくなって、ミミズさんに近づく。
『僕は若葉! 君は――』
すると、ミミズさんはそそくさと穴の中に下がっていって、見えなくなっちゃった。
どうしたんだろう? 恥ずかしかったのかな?
ミミズさんが消えて行った穴を覗いてみる。
穴の中は真っ暗で、底が見えない。
また顔を出してくれるかもしれないから、すこし待ってみようかな。
でも、この暑さだとちょっと――
ボコッ
足元から音がして、僕の前足がすこし浮く。
見てみれば、僕の前足の下にミミズさんの顔があった。
大きさからして、さっきのミミズさん。
アスパラガスの穂先の様に先が尖った口を縦と横に開こうとしているけれど、僕の足がじゃまでしっかり開けないみたい。
ミミズさんが口を開こうとするたびに僕の前足が上下して、なんだかたのしい。
ずっとこのまま遊んでいたいけれど、この暑さだとすこしたいへん。
やっぱり、この暑さを遮るものがほしいけれど、なにかないかな。
辺りを探すけれど、あるのは石と土。
ミミズさんが掘った穴はすこし狭いけれど、入れそう。
でも、勝手に入ったら、怒られちゃうかも。
うーん、ほかになにかないかな……。
そういえば、ミミズさん達はここに住んでいるし、前に魔力感知でみた時は、ひなたぼっこもしていたよね?
僕ならひなたぼっこしている間にこんがり焼けちゃいそうなのに、ミミズさんは平気。
なら、僕もミミズさんみたいになれば……平気?
きっと平気だよね?
うん! たぶん平気!
さっそくミミズさんみたいに……みたいに……。
ミミズさんみたいになるのって、どうすればいいんだろう?
色?
土色で隠れるのによさそうだけれど、暑さとはあんまり関係なさそう。
じゃあ目かな?
口のすこしうしろ辺りにある黒い点が目みたい。
その目が四つの方向に二つずつ、あるのかな?
色んな場所をたくさん見れて便利そうだけれど、これも暑さと関係なさそう。
捻じれた様な口もあんまり関係なさそう。
でも体を覆っている皮はとっても厚そうだね……あ!
僕も体をなにかで覆ったら、暑くないかも!
でもなにで覆えばいいのかな?
毛ならもう覆っているんだけれど……。
土?
あ、でも、ここの土は乾いているみたいだし、すぐに取れちゃいそう。
なら、あと覆えそうなのっていうと、魔力くらいかな?
壁を僕の周りに作るやつ。
とりあえずやってみよう。
ぐいぐいと僕の前足を下から押してくるミミズさんからすこし離れて、鼻先に魔力をあつめて、ぐっとしてぽん。
出てきた魔力の球が形を変えて、僕を覆っていく。
これで……うーん、暑いね。
やっぱり、このままだとダメみたい。
でもあとは涼しく……涼しく?
涼しくするのって、どうすればいいんだろう?
“ときこ”はよく夏に水を撒いていたよね?
打ち水っていうんだっけ。
でも、これから歩くから、そのたびに打ち水するのもたいへん。
こう、『涼しくなれー!』って言ったら、涼しくならないかな?
………ならないみたい。
うーん、どうすればいいんだろう?
ガジガジィ
いつの間にか、ミミズさんが僕を覆っている壁に口を押し付けて、かじっている。
ミミズさんの口の中に大きな歯が八つ、綺麗に並んでいるのが見えた。
『……おいしいの?』
ミミズさんは僕の問いに答えず、一心不乱に壁をかじっていた。
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