第37話 宿屋に異世界人が来た

 夕方、リヨンはセレナとパウロを連れて宿屋に来ていた。

 土壁に白い漆喰を塗った外壁が真新しい。

 屋根は石で作った平べったいスレート。

 小さいながらも立派な宿ができたと、リヨンは自負していた。

「六人は泊まれそう」

「ベットは運び込んだから。あとは客を迎えるだけだね」


 宿屋はターナー副村長の家もある大通りにある。

 『森の中の酒場』は村で唯一の酒屋だ。たまにベルン村の住民が来ることがあった。 



 リヨンはベルン村のフリーマン村長が客を連れてきていると事前に聞いていた。

 さっそく、ベルン村からの来客を迎えるとしよう。

 どうやら三人パーティーの冒険者らしい。

「よぉ! 村長」


 赤髪の長剣使いが手を挙げて、挨拶あいさつしてきた。

 彼とは数年前に会っている。異世界から来た冒険者だ。

 赤髪の長剣使い、黒髪の剣士、茶髪ポニーテールの魔法使いが再び村にやってきた。

「おじゃまします」

「いらっしゃい!」


 魔法使いは赤髪の長剣使いとは違って、丁寧ていねいな言葉遣いで話す。

 彼女は黄色い窓が気になったようだ。

 一階の窓には羊の角をはめ込んである。

「変わった窓ね。ガラスじゃないの」

「ガラスは高くて買えないよ」

「日本には普通にあるよ。言っても知らないか」


 魔法使いが言うには異世界ではガラス窓が普通にあるらしい。

 恐ろしい世界だ。きっと金持ちが多いのだろう。


 赤いハチマキを巻いた黒髪の剣士が「今日は三人泊まれる?」と聞いてきた。

「何日泊まるの?」 

「1泊、食事2回は食べたい」

「食事付きだと10リュートかな」

「明日もベルン村で依頼があるから」

「リュート小銀貨だと30枚必要だね」


 リヨンは代金を受け取ると、三人は一目散にニ階に向かった。

「2階の6人部屋にどうぞ」

「剣と鎧を置きにいってくるわ」


 その間にセレナが天井の光石の調整をする。

 光石は魔物の体内で生成された魔石を特殊加工したものだ。

「そなたこれでいい?」

「少し明るくなったね。セレナ」


 彼らが普段着の姿で階段を降りてくると、リヨンは広間にあるテーブルに案内した。

 赤髪の青年はおしゃべりだ。

「飯はまだかよ?」

「酒も出そう。ぶどう酒とエールがあるよ」

「異世界じゃ酒を飲むのは20歳からなんだ。俺たちはパスだけどな」

「シャルル王国じゃ決まりはないよ」


 リヨンはそう言い残して、ぶとう酒入りの壺を取りに行った。

 その間にセレナが黒パンとベーコンを机に並べた。木皿の上にパンを乗せて。

「ちゃんと手を合わせろよ。つとむ

「わかったよ。いただきます」


 リヨンがぶどう酒入りの瓶を持ってくると、赤いハチマキの剣士に頭を下げられた。

 赤髪の長剣使いとは違って、ぶっきらぼうな言葉は使わない。

「村長! すみません。いきなり押しかけて」

「いや。いいんだよ。ところで君の名は?」

「俺は拓海たくみ。隣にこいつがつとむ。パーティの紅一点が七海ななみだ」


 リヨンは思った。やっぱり異世界の名は発音しにくいと。

「今日は名前を知れてよかったよ。知ってると思うけど自分は村長さ」

「知ってます。ベルン村のフリーマン村長から聞きました」

「ああ、冷めるから早く食べて」


 彼らは陶器のコップにぶどう酒を注ぎ入れ、乾杯した。

「乾杯! 今日の宿に」


 仲良さそうな三人を横目に見ながら、リヨンは厨房にミルクシチューを取りに行く。

 鍋を両手でかかえて、宿の広間まで運んだ。

「ウサギ肉入りミルクシチューだよ」

「おおっ、農村で肉が食えるのかよ」

 

 赤髪の冒険者の嬉しそうな反応にリヨンは喜んだ。

 三人は湯気が沸き立つシチューに舌鼓を打つ。

「おわかりもあるからね。パンも持ってくるよ」


 テーブルにライ麦パンを持っていったついでに、三人の雑談に耳をました。

 会話の内容がよくわからないが。彼らが元いた世界の話だろう。

「しかしなぁ。異世界はポテトが食えないぜ。トマトもジャガイモもねえし」

「トウモコロシがないからコーンスープが飲めないね。勉」

「マンガでよくあるじゃんよ。異世界で米とマヨネーズを作る話。誰か作らねぇのかよ」


 やがて三人が二階に上がると、セレナが一階天井の光石を暗くした。

「おやすみ。若き冒険者よ」


      ☆


 翌日、リヨンは朝からパン屋で黒パンを調達した。

「ミラー、ライ麦パン9個頼むわ」

「村長。リュート小銀貨18枚か、デニエ銀貨を1枚出して」

「デニエ銀貨1枚で」


 その足で宿屋に行き、朝飯の用意をする。

 セレナがジョンから買ったヤギのミルク。

 それがお客に出す朝食になる。

 

 セレナが三人を起こしている間に朝食の準備。

 薄切りにした黒パンにあぶったチーズをせて。

 ヤギのミルクは鍋で温め、コップに注ぐ。

「おはよう。諸君!」


 寝ぼけまなこに階段を降りてきた三人は

 テーブルを見て驚いた。

「まるでハ◯ジになった気分だぜ。七海」

「溶けたチーズがおいしそうね。つとむ

「早く食べようぜ」


 三人は伸びるチーズに喜び、おかわりを希望した。

 リヨンは木皿に黒パンを三個載せて渡した。

「チーズはないんだ。今切らしてるから」

「あ~あ。チーズがなくて残念」


 仲間から七海と呼ばれる女が悔しがる。

 彼らは手早く朝食に済ませ、席を立った。

 男二人が階段を上がっていく。

「村長! このパン包んで?」

「わかったよ」


 リヨンはリネンの布にパンを包み、七海に渡した。

「ありがとう、村長。私も出発の準備をするから」



 男二人が旅支度を整えて、階段から降りてくると七海が二階に上がった。

「村長、俺たちは出かける準備をするぜ」














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