第25話  ダークエルフ救出作戦

 突然 魔王軍残党との戦争が始まった。リヨンが王都に出かけている間に、どうやら魔族が侵攻してきているようだ。 王都に逃れてきた避難民を通じてうわさが流れている。

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 リヨンは岩塩に価値があるかどうかを調べるために王都に来た。岩塩はデニエ銀貨一枚分の価値をもつようだ。

 リヨンは店に岩塩を売りにいった帰り道、一人のエルフを見かけた。みすぼらしい服を着たダークエルフの子どもが歩いている。片手にパンが入ったバスケットを持ちながら。

「ダークエルフの子どもがいる。もしかして? 」


 リヨンはその子のあとを追いかけて路地裏に行った。薄暗くて、どぶの匂いがする路地裏には娼館が立ち並ぶ。男の子は二階建ての建物に入っていく。

「こんなところで何をしている? 」


 リヨンは黒い長髪の若者に声をかけられた。腰に片刃の剣を差している男だ。素直に理由を話す好青年にブレイはあきれてみせた。

「知り合いの子どもが村から連れ去られてね。取り替えそうとしているんだ」

愚直ぐちょくだな。もし、俺がやつらの護衛だったらどうした。俺はブレイ・アヴァンシア。ブレイと呼んでくれ」


 リヨンは懐に隠し持った短剣をきつく握りしめた。しかし、このチャンスを逃がせば連れ去られたエルフを取り戻すことはできない。一筋の光にすがるしかなかった。

「私はリヨン、ここでは何ですから酒屋で話を」

「よし、 俺のなじみの店に行こう」


 リヨンは小さな酒屋のカウンター席に案内された。「寒いから蜂蜜酒ミードでも飲もう」とブレイが言う。リヨンは「いただきます」と返した。

 蜂蜜酒ミードは冷えた体を芯の底から暖めてくれた。それに甘い蜂蜜が疲れを和らげてくれる。


 最初に口を開いたのはリヨンだった。リヨンは早く協力を求めたかった。

「ブレイさん、ダークエルフ救出に協力していただきたい」

「協力してやる。但し、金貨をもらおう」

「わかりました」


 リヨンはカウンターに王国が作ったシャルル金貨一枚を置いた。ブレイは気前の良さに驚き、リヨンの身の上を怪しむ。ただの農民ではないと確信した。

「しばらく雇われてほしい。村に帰るまでの護衛が欲しかった」

「気前がいい。あんたに協力しよう」

「その剣はなんだか変わってるね」

「俺が持つムラサメブブレードは転生してきた刀鍛冶が作ったらしい。いや、マサムネブレードやムラマサブレードもあるらしいが見たことはないな」


 リヨンは自身の過去を手短に語った。

「今は農民だけど昔は冒険者だった。仲間が3人いたんだ。今は解散したけど良いパーティだったよ」

「俺も冒険者の端くれだ。生まれはこの王国ではないが。強さを求めて生きてきた」


 リヨンは店を出る。片手に青く光る剣を持ちながら館を目指して歩きだした。ブレイも同伴する。

 静まり返った路地裏には明かりもなく、人影もない。ただ静寂せいじゃくが広がるだけだった。


 問題の館の扉は鍵がかかっていない。夜になると客が入って来る時間だからだろう。なんて無防備な連中だとリヨンは思った。

 暗い廊下を通ると、光が漏れる部屋があった。こっそり覗くと、館の護衛と思わしき男が椅子に座っていた。二人は押し入る。


 灰色のフードを着た男が腰に指したファルシオンを抜いた。煌めやかな片刃の剣が上から振り下ろされる。リヨンはミスル銀でできた剣で受け止め、男の腹をけり飛ばした。

 ファルシオンが砕け散る。男が震え上がっている間にリヨンは剣を振り下ろす。背後の壁に血しぶきが飛び散った。


 両手にダガーナイフを構えた暗殺者がブレイに立ちはだかる。ブレイは鞘から刀を抜いて正面に構えた。逆手に持ったダガーが宙を切る。ブレイは右足を踏み出しながら突き技を食らわした。一撃だ。

「どうやら休憩中だったようだな」


 二人の護衛を片付けて奥へと進む。どうやら館には他の護衛はいないようだ。木製の扉を叩いてダークエルフを探すと、隅っこで震えていた親子がいる。子どもは兄弟だろう。

「助けに来たぞ」とブレイが声をかけた。


 銀髪の親子は人間を簡単には信用しないだろう。ブレイは冒険者手帳を見せて、親を安心させようとしたがうまくいっていない。

 ブレイにその場を任せ、リヨンは二階に上がった。二階にも女のダークエルフがいるようで。さっそく説得を試みる。

「アーテル族長の命令により助けに来た」

「族長? アーテルさまが生きておられた」とダークエルフがざわめいた。


 六人のダークエルフはいずれも薄手の服を身にまとっている。リヨンは「他の仲間はどうなった? 」と尋ねた。

「半分はミスル銀鉱山に連れていかれた。エルフは魔法が使えるから鉱産物の精製に活用するって」

「鉱山には採掘用ゴーレムがいるから救出は難しいな。人数が要る」


 リヨンはダークエルフに巻物スクロールを見せた。取っておきの逸品だ。巻物を広げて転移の準備をする

「転移の巻物がある。私の村に一瞬で行けるぞ」

 

 リヨンが目を開けた時には村の広場にいた。リヨンは近くを通ったターナーに呼び掛けた。

「頼む。お湯と布を持ってきてくれ。セレナも呼んでくれ」

「どうして? そのエルフと冒険者は」

「説明はあとだ」


 リヨンは空き家にダークエルフを入れた。

 大人が六人、子供が二人の大人数なので集落に引き取ってもらいたい。ダークエルフは純血主義だから子を妊娠した女は拒否されるだろうか。もし、そうなれば村でハーフエルフを保護したっていい。


 ターナーが持ってきた布をダークエルフたちに渡すリヨン。扉を閉めて後はダークエルフたちに任せる。

「ダークエルフの集落に行くか」

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