第26話 今後の方針 ダークエルフは去る
十一月。リヨンは八人のダークエルフを連れて集落に向かっていた。集落の入口には警備隊長のクルーデリスと副長のウィレムが待ち構えていた。
警備隊長は細い目でにらみを効かせながら、じろりと見つめた。
「村長、そちらのダークエルフは」
「王都から拾ってきたんだ。クルーデリス」
「拾ってきただと…… バカな」
「族長のアーテルを呼んできてくれ」
家から顔を出したアーテルはリヨンと
「アーテルさまが生きておられた。我らが王の血を引くものが生きていたんだ」
リヨンは族長のアーテルに一連の経緯を説明し、二人の子どもの背中を押した。嬉しそうに駆け寄っていく二人。
「みんなと話し合ってくるよ」とアーテルが行ってから少しの時間が過ぎた。
戻ってきたアーテルは開口一番に「妊娠したダークエルフの受け入れはできない」と言った。
それは三人を拒絶すると言う意味だろう。言葉通りに受け取っていいのか。
リヨンは怒りでわなわなと震えた。
「それは 生まれてくるであろうハーフエルフを受け入れないという意思表示かな? 」
「集落の決定だ! 」
「俺は五年間の冒険で数多くのハーフエルフを見てきた。エルフの血を引くものは魔法が得意だし、弓の腕も抜群だ。集落に引きこもるエルフにはわからないだろっ! 」
リヨンはダークエルフへの金銭援助と食料提供を辞めると決めた。
アーテルはリヨンに言い放つ。
「我々は種族の
「わかった。エルフが決めた道を進むといい」
アーテルが三人を連れて帰っていった。後ろ姿を無言で見送るアーテルは何だか虚しい表情だ。
リヨンはダークエルフの古くさい"因習"《いんしゅう》から来る迫害に
リヨンは「村に帰るよ」と保護したダークエルフに言った。
ダークエルフの隠れ家は外からは見えにくい場所にある。壁と屋根に板を張り付けた粗末な隠れ家だ。
「私はタフト、こっちの太っちょはシャーレー、背が低いのがフェロー」
「自己紹介は終わったね。王都の現状を聞かせてくれるかな」
長髪で細身のタフトか前に出る。
「タフトが説明します。魔王の息子と四天王の一人がリュテスに攻めてきました」
「続けてくれ」
「軍人が言うにはゴブリン弓隊、ゴブリン剣士隊、ゴブリンライダー、ゴブリン騎士隊やゴブリン魔法隊もいるそうです」
「そんなにも? 近衛兵だけでは勝てないな」
リヨンは頭の中で考える。王国の
「とりあえず村の防備を固めよう。村人で集まって会議だな」
「私たちは? 」とシャーレが不安げに話す。
「休んでくれ。まずはベットで休まないと」
「はい」
夕方、リヨンは隠れ家に日用品を持っていった。外から見えないように窓に羊皮紙をはりつけた家だ。反対側には木製の
エルフが魔法で囲炉裏に火を着けた。炎が燃え上がり、小さい部屋が暖まる。
「スプーンと皿を持ってきたよ」
「何から何まで。お礼申し上げます」
「気持ちだけでいいよ」
小さな鍋を囲炉裏に置くと炭のにおいが広がった。煙が立ち込め、エルフたちの姿が見えにくくなる。
「黒パンは固い。ポタージュに浸さないと食べにくい」
「やっぱり エルフは固いパンが嫌いなんだ」
「奥さんはハイエルフでしたね。なかなかの腕前ですね。魔力を押さえてますし」
「へぇー 俺は魔力が見えないからわからなかった」
タフトは鍋から木皿にポタージュをよそった。ドロッとした汁に力技でちぎったパンをつける。
「食べて力をつけないと」
「やせたからね」
シャーレがフェーロのためにポタージュをよそった。フェーロは風邪気味で小さな咳がででいる。
「少しだけでいい」
「心配だわ。寒いから」
暗闇の夜、部屋はろうそくで照らされていた。
リヨンは自宅で悩んでいた。村人が十人程度しかいない中、戦力になるのは三人しかいない。とてもゴブリンの大群を相手に対抗できる戦力ではなく、力の差がはっきりしている。
戦力の問題と比べると、農村の食料事情はましだった。都会の貧民は教会や貴族から
もし、蓄えが尽きても資金さえあればシュタルクや近郊の村から食料を買えるだろう。
それに倉庫には少しばかりの
「なぁ、 セレナ。来年は野菜を育てようか」
「そうだね」とセレナは言った。
小麦は土地がやせているから難しそうだ。まずライ麦を植えよう。野菜はえんどう豆・ヒヨコ豆・インゲン豆・にんじん・玉ねぎ・キャベツ・大根・カブ・リーキ・ニンニクから選べる。
食料の問題は解決できるだろう。その食が小麦に片寄ったものになっても問題ない。人はパンのみで生きられるものではないが、生活には
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