第23話 セレナとの再会

 リヨンはセレナに駆け寄って、力強く抱き締めた。家の中だから誰も見ていない。

「セレナが無事でよかった」

「わっちは怖かっ…… 」

「なにも言わなくていい。無事ならいいんだ。無事ならそれだけでいい」

「ぬしがいないからわっちは不安だった」


 セレナは涙をポロポロと流し始めた。気丈なセレナにしては珍しい。

 リヨンはセレナをわらのベットに寝かせた。夫がいない不安は相当のものだったろうと、リヨンは考え感じた。

「泣かないで。今はベッドで寝てろ」

「でも、わっちが動けないせいで、村のみんながケガをした」

「大丈夫だから安心しろ。それに俺がいる」

「ぬしが?」

「俺は強い。だから心配するな。家で寝てろ」


 魔王軍の"残党"による攻撃は村に甚大じんだいな被害をもたらした。一部の村人は家を焼かれ、野原で震えている。

「木を切って家を作らないといかんな。村長」

「そうですね。ご老人」

「わしも家をなくした。燃えたのじゃよ」

「良かったらテントに住んで下さい。余りがあるので」

「本当か。しばらく厄介になるの」


 村人を救わなければ。リヨンの心の中に沸々とした思いが沸き上がってきた。寒い思いはさせたくない。


 家を出たリヨンは村の中央広場に向かった。魔石と化したコボルトを拾い集め、短剣や槍を回収する。槍は使えそうだが剣は質が悪い。

「とりあえず武器を集めよう。子供と女性は矢を拾い集めて。ダークエルフはこっちに来てくれ。残った矢を渡すから」


 村人は一通りの武器を回収し、中央広場に集めた。次にテントを作る手はずを整える。

 まず最初に細長い柱と毛布を集める。中央に柱を建て、天幕を広げてテントの設置を終えた。

「みなさん こちらに来て! 」



 リヨンは夜の食事を用意することにした。運の悪いことに手元には固い黒パンしかない。リヨンは桶に井戸水を入れた。

 リヨンは、水に浸したパンをターナーの子ども達に渡した。ターナーの子ども達は頭を下げる。

「カインとアベル。ちゃんとお礼を言いなさい」

「ありがとう」

「いい子たちじゃないか。それでこれからどうするんだ? ターナー」

「この村で家を再建したいと思っています」


 リヨンは驚いた。確かにノワール村で家を再建することは出来るだろう。しかし、何度も魔物に攻められては身の安全を保障できない。やがては命を失う村人も出るだろう。

「大丈夫とは言えないが。私もできる限りの防備をします」

「槍をもって戦うしかないな」


 仮に戦いが終わったとしても。また、魔族による侵略が繰り返されるかもしれない。村人が死なない保証があるだろうか? 正直、移住者はベルン村に帰した方が良いのではと思う。

 村の存続を考えるならば、村の復興を優先するべきだ。しかし、リヨンの不安とは裏腹に村人の多くは村に居たがっている。理由は明白だ。今さら、帰る場所がない。


 リヨンは気持ちを切り替えて小屋に向かった。三頭のヤギからミルクを頂戴する。絞りたてのミルクを鍋で加熱して、それから村人達の所に運んだ。

「さぁ並んで。ミルクを渡すから」


 十数人の村人は木の椀を持って並んだ。リヨンが村人達にミルクを渡していると、そこに村の青年が駆け込んできた。彼は息を切らしながらリヨンに言う。

「た、大変だ! 山の方で骸骨騎士がでた」

「骸骨騎士!? 放置すればいい」

「なんで? 」

「弱いからさ。それよりも腹ごしらえを」



 その頃、アーテル族長とエドは感動の対面を果たしていた。

「エド…… 生きていたのか? 」

「アーテル 、しばらく見ないうちに大きく成りやがって」

「エド。村には戻ってこないのか? 」

「俺は魔王軍との戦いが終わるまで帰らない。先立つ金も必要だしな」

「そっか。頑張れよ」


 二人は歩きながら話を続けた。

「アーテル 村には何人のダークエルフがいる? 」

「30人はいる」

「俺は10人の仲間を連れてきた」

「すっかり少数民族になったな。ダークエルフも」


 アーテルとエドの二人は笑いあった。

「あぁ、俺達は少数民族になってしまった。だがな、俺の仲間は一人も諦めてはいない。十年かかっても民族を復興させる」

「そうだな。戦いが終わったら、村を作りなおそう」

「そうだ! その為にもまずは魔王軍の幹部を倒さないとな」

「我々もできる限りの協力はする」

 

 その日の夜、四十人のダークエルフは集落で宴会を行った。焚き火を中心に円座になって大人数で肉を食い、エールを飲む。


 アーテルは仲間に向かって演説を打った。

「我々は今ここに再び集まった。今や、魔王が死んだことで世界は変わろうとしている。

ダークエルフは決して滅びない。我々の村を取り戻そう。我々の力を侵略者に示そう。そして我々の奪われた富を増やそう」


 ダークエルフは一斉に盃を飲み干した。樽に入ったエールとぶどう酒が空になってゆく。

 エドが乾杯の音頭をとる。仲間の盃になみなみとエールを注いで回った。

「今夜は祭りだ。我々の勝利に乾杯しよう」


 エドはアーテルが持つ盃になみなみとエールを注ぐ。エドが「先代の族長に乾杯」と言うと皆が一気に杯を飲み干す。連帯感を示すための一種の儀式だ。


 そうしてダークエルフは一夜を飲み明かした。エルフは大酒のみだ。そういえば家にも

大酒飲みが一匹いる。彼らはすぐに樽を飲み干してしまう。今夜は樽を一つ開けたそうな。

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