荒ぶる魔物
第22話 再び 農村が襲撃された
リヨンはたった一人でシュタルクにやって来た。アウィスが引っ張る荷台に乗って、
「おい! きさま 何を売りに来た? 」
「薪を売りに来ました」
二人の門番は荷台にある積荷をあさって、薪をさわった。
「荷物を確認した。入ってよし」
「よかった」
さっそく、リヨンは町の大きな材木屋に足を向けました。目的は薪を売るために
「荷台にある薪を全部売りたい」
「全部か? いいとも。おい、手伝ってくれ! 」
店の主人は見習いの小僧を大声で呼びつけ、薪を運ばせ始めた。
「店主、薪はいくらで売れる? 」
「銀貨10枚でどうだろう? 」
「よし 売った」
その時、シュタルクの街道を早馬が駆け抜けていった。騎士は「どいた! どけって言ってるだろ! 」と叫んでいる。
その頃、店の主人は見習いの小僧と薪を運び出していた。リヨンは薪を荷台から出しながら、顔を怒鳴り声がする街道の方向に向けた。
「朝から騒がしいなぁ」
「お客さん、何があったらしいね」
リヨンは材木屋を後にする。ライ麦が入った樽を三つ荷台にのせて村に戻ろうとしていた。その時、武装したローランド辺境伯と出くわした。
「これは辺境伯殿」
「リヨン村長。今すぐ村に帰りなさい。側近の護衛をつける」
「辺境伯殿、何かありましたか? 」
「魔族がシュタルク近郊の村に攻めてきたと報告を受けた。今すぐ村に帰りなさい」
「魔族が村に…… 」
「四天王のひとりが魔王軍の残党を束ねているようだ。貴君も兵を集めていれば良かったが」
それは突然の悲劇だった。村には身重のセレナもいる。村人は弱い。村人がセレナを守れるとは到底思えなかった。ダークエルフに守ってもらおう。
「村に帰ります」
「エドよ、前へ! 」
十人のダークエルフが前に進んだ。銀色に輝くミスル銀の鎧を身に付けた銀髪のダークエルフが。
「お前たちは先遣偵察隊として行け! 頼んだぞ。エド」
「辺境伯さま お任せを」
リヨンはアウィスにムチを打って荷車を走らせた。急かす気持ちだけが先行するが、荷車は思ったように前に進まない。
「リヨン村長、村にアーテルという男はいますか」
「あの黒髪の。族長の息子だね」
「生きていたのか。良かった」
馬に乗った五人のダークエルフが門を出た。エドは部下にあれこれと指示を送っている。
「何としても魔族を突破するんだ。ノワール村に奇襲を敢行する」
「私たちも出ましょう。リヨン村長」
「ああ、荷車はシュタルクに放棄する」
リヨンはアウィスに乗って街道を走り抜ける。石畳で舗装された道が消え、土に変わった。
村の入り口に差し掛かった。銀色に輝く鎧を着た騎士が検問を張っている。槍や盾で武装した重装歩兵が休んでいた。
「止まれ! 」
「私は辺境伯の部隊だ。お通し願いたい」
「許可する。親衛隊の顔は知っている」
荒れたあばら家に動く影が見える。どうやら、辺境伯配下の騎士が家を占領しているようだ。
「調子はどうだ? 」
「悪くない。コボルトが攻めてきたから撃退したぜ。捕虜は"仲間が800人いる"とほざいていたがな」
「捕らえた捕虜はどこにいる? 」
「そこに転がってるよ。見たかったら見な」
ベルン村を出るとすぐに雨が降ってきた。雨足は強まる一方だ。ぬかるんだ道を走り出す。
「村は持ちこたえているだろうか。心配だ」
「行きましょう。きっと間に合います」
リヨンはベルン村からノワール村につながる道を走り抜けた。遠目に村が見える。 村の
エドが剣を抜いて「騎兵隊は側面に突撃する。続け」と叫ぶ。十人のダークエルフが後方からなだれ込む。コボルトはまるで岩が割れたように分断された。五人が右に切り込み、後の五人が左に切り込んだ
「魔法攻撃はコボルトに効く。敵の退路を絶て! 」とエドが号令を下した。
族長のアーテルは機は熟したと判断した。村からも十人のダークエルフが突撃。セピアとクルーデリスが前衛だ。
「ゴブリンの次はコボルトか。厄介だよ」
「コボルトなど 相手にもならん」
先頭に長剣を構えたダークエルフが突撃して、ゴブリンを押し返していく。ゴブリンは崩れながら後退を続けた。
エドは逃げ出したコボルトの背中を追いかけた。馬を巧みに操り、コボルトの進路を塞いでゆく。
五人のダークエルフが一斉に闇の聖霊魔法を使った。逃げ出したコボルトが苦しみながら死んでいった。
わずかに無傷で生き残ったコボルトがいる。指揮官は傷ついた仲間を
戦闘民族ダークエルフの名は伊達じゃない。三百ほどいたコボルトは三分の二が死んだ。
その頃、リヨンはコボルトから剣を奪って敵陣の突破をしていた。犬頭の怪物を蹴り飛ばして制圧。コボルトの死体を乗り越え、破壊された木柵を見て絶望した。
ターナーは短剣を携えて村人に現状を聞き出していた。
「村はどうなった? ターナー」
「ダークエルフが応戦しています」
「死人は出たか? 」
「けが人は出ましたが、誰も死んでいません」
平屋の家はコボルトに火を着けられていなかった。リヨンは短剣を地面に投げ捨て、家の扉を蹴飛ばして中に入った。
「セレナ! 生きているか! 」
(23話に続く)
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