第17話 昔 勇者、今 村長

 朝からターナーは森林の開拓に勤しんでいました。ターナーが木を切り倒し、フリーマンが根っこを地面から掘り出しています。

「フリーマン、切り倒した木は村に運ぼう」

「ターナー、町で売るのもいいが村長に売りつけるのもいい」

「それはいい。いい稼ぎになるよ」


 ターナーはフリーマンに絶対の信頼を置いていました。ベルン村にいた頃から活躍していた実績を買っています。

「ターナー、荒れ地を開拓すれば村長から土地を貰えるのだろう」

「考えていることはわかる。肥沃な土地が欲しいんだね? 」

「荒れ地だから作物が育ちにくい。ここの土地はベルン村よりもひどい」

「そうかなぁ。フリーマン」

「ターナー、どうした?」

「いや、この土地も少しは肥沃になるんじゃないかと思って」


 ターナーがそういうと、フリーマンは考え込みました。

「どうして? 荒れ地はいくら耕しても駄目じゃないのか」

「まあ、そうだが…… 肥料を撒けばいいような気がするんだ」

「肥料か。ターナーは金があるな」

「俺の牛を放牧すれば多少はマシになるよ。糞は肥料になるから」


 その時、遠くから悲鳴が聞こえました。

 何事かと思って二人が駆け出すと、三人の農民が緑色の怪物に襲われていました。五匹のゴブリンが人を襲っているようです。

くわと斧ではまともに戦えん。フリーマン、村長を呼んでこい」

「わかった。行ってくるぜ」

「俺は戦って時間を稼ぐ」

「死ぬなよ。ターナー」


 フリーマンは走り出しました。仲間のため、大切な友人のために。

 丘を登って村長の家にたどり着いた彼は「仲間を助けてくれ!」とだけ言います。

 リヨンは立ち上がると、青色に光る長剣を手に取って家を出ます。


 農民は斧でゴブリンたちと戦っていました。

 リヨンは剣を振り回しながら、ゴブリンの群れに突撃します。

 リヨンが大声で「早くにげろ!」と叫ぶと、ゴブリンたちが一斉に振り返りました。早く剣を持ったゴブリンから農民を引き離さないといけない。

「ターナー! 待たせた」

「危ない! 」


 リヨンは振り返りざまにゴブリンを切り捨てました。リヨンは剣を高く構え、ゴブリンに向けて剣を振り下ろします。リヨンは右足を踏み出しながら、ロングソードを左に打ち払って、ゴブリンの頭を切りつけた。

「はたき切りっ」


 リヨンはゴブリンの腹に蹴りを加えて突き放し、振り下ろした剣でゴブリンの頭を割った。ゴブリンはピクリとも動かない。

 残りのゴブリンを逃してしまったが、仲間の命はなんとか守られた。村を守るには多大なコストを払わなけれけばならない。

「二人で木を運ぼう。村に戻らないと」

「村長、ちょっと待ってくれ。まだ作業が残っている」

「森での作業は後ですればいい」

 

 リヨンは抜き身の長剣ロングソードを片手に持ちつつ、周囲を警戒しながら村に戻ります。

 村に帰るとターナーとフリーマンが詰め寄ってきました。

「村長。こうも頻繁にゴブリンが出ると村の開拓が進まないぞ」

「そうだ。昨日は羊が狙われた。今日は村人がさらわれるかもしれん」

「フリーマンさん、巡回を増やしますから」

「だとしても。安全が保証されないぜ」


 フリーマンの機嫌は悪くなる一方でした。この村長はゴブリンを討伐する気がない。そして、今の村には居心地が悪いと感じているようです。

「俺は町に行って一稼ぎしてくるよ。じゃあな」

「フリーマンさん!」


 村長の制止を振り切ってフリーマンは出て行きました。

 その背中を見ながらリヨンは考えます。この村はまとまりがない。ゴブリンを倒さなければ平和な明日は来ないだろうと。

「今から多数決を取ります。ゴブリンを倒したい方は手を挙げてください! 」


 リヨンがそう呼び掛けると、九人全員が手を挙げた。

「明日、皆さんと力を合わせて戦いましょう。ゴブリンがノワール村を攻める日も近い。やがて、村を滅ぼしにくる日も来るでしょう。その段階に来ています」


 リヨンの演説にベルン村の反応は薄い。

 大方、ゴブリンと戦ったことのない農民ばかりでしたから。ゴブリンを嫌いながらも自ら戦おうともしないのです。


 リヨンは怒ってました。

 期待の言葉はいりません。人任せにはうんざりしていましたから。

「村長に任せろ。心配するなって」

「村人を代表して任せるぞ。村長」

「ターナーさん 任されましたね。ゴブリン退治」



 リヨンは昼から村を見回ります。ベルン村の移住者は家の周囲にある荒れ地をくわで耕していました。どうやら開拓は順調に進んでいるようです。


 リヨンは手を叩いて農民の注目を集めました。

「耕してるか?ご老人 」

「はい。村長」

「俺も耕すよ。雪が降るまでに玉ねぎを植えないとな」

「カブの種なら家にあるんじゃ」

「なら植えてくれないか」

「取ってきますよ。村長」


 リヨンは鍬を肩の高さまで持ち上げ、手前に引くようにして雑草を掘り起こしました。土は固いですが、固いからこそ耕しがいがあるのです。

「村長、収穫はいつだい? 」

「カブは十一月に、玉ねぎは五月、小麦は六月に収穫できるかな」


 リヨンは井戸からくんだ水を畑にまきました。

「思ったより時間がかかるわな。冬に向けて豚を飼わんとな。冬を越す食料が足りんわ」

「わかっています。あと五匹は欲しいところでして」

「ドングリを集めて肥えさせなければいかんな。ワシもよーやった」

「すでに集めております。ご老人」

「手際は良いのう。ほめちょる」

 



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