村に来た移住者

第16話 不公平だと駄々をこねる村人たち

 季節は秋を迎えていた。

 昼には、十一人の移住者が村にやって来た。


 羊飼いは六頭の羊を引き連れて来ていた。

 金髪の女は先端にフックが付いた牧杖で羊を先導し、道を外れないように誘導している。

「はじめまして。ノワール村の領主をしているリヨンです」


 リヨンはそう言って、羊飼いに頭を下げた。

「私は羊飼いをしているジョンと言います」

「ジョンさんもベルン村から移住を希望する一人ですね」

「はい。村では安全に羊を育てられないので」

「では、テントに案内します」


 リヨンはターナー家にも声をかけた。赤毛の一家はにぎやかで活気がある。

 この方なら村を引っ張ってくれそうだ。リヨンはそう思った。

「ターナーさん、家にご案内します」


 ターナーの家は丘の家からは離れた場所にある。数日前、リヨンがプレオ兄弟に頼んでつくってもらった平屋だ。

「今日からここがあなたの家です」とリヨンが言うと、ターナーは目を丸くして驚いていた。

「新しい家に住まわせてもらっていいんだ?」

「さぁ 中に入って」


 中には一部屋だけの家が広がっていた。これがこの村の標準的な家の造りになる。

「村長の家もこのような造りなのか? 」

「どこも似たような造りです。4人では手狭でしょう。必要があれば増築してください」

「では、町から大工を呼んできます」


 ターナーは四人の家族に自己紹介をうながした。

「私はマーガレット。ターナーの妻です」

「僕はアベル・ターナ。12歳です」

「俺は次男のカイン・ターナー。よろしくな」


 リヨンとターナーが話している間、ターナーの息子だという十二歳の少年が物珍しげに剣を見つめていた。リヨンは彼に挨拶をする。

「こんにちは。私はリヨンです。以前は冒険者でした」

「私はアベルと言います」

「君は住んでいたベルン村を離れてさびしくないか? 」

「はい。さびしくないです。家族がいますから」


 ターナーは二頭の白い牛と、五頭のアヒルを連れていた。 リヨンは牛の値が張ることを知っており、驚いた反応を示した。

「立派な角だ!高い牛でしょうね」

「えぇ、これでもまだ子供なんですよ。成長すればもっと大きくなります」

「すごい!畑の開拓に使えますね」

「ええ。今後が楽しみです」


 ターナーと別れた後、リヨンは大工と四人の農民をテントに連れてきた。特にフリーマンと呼ばれる農民は強圧的で粗野な態度を取っている。

「なぜ? 俺たちがテントなんだ。村長さんよ! 教えてくれ」

「大工が家を作っている。待ってくれればできるから」

「そんな、不公平じゃないか」

「君たちが来るのが想定よりも早すぎた。ライ麦と大麦は提供するから」


 リヨンは自分の考えが甘かったことを確信した。目先の食料は足りず、ベルン村から来た移住者の家は完成していない。

「ターナー、みんなを集めてくれ。村長の家に集まるように伝えてほしい」


 十一人の村人はすぐに集まった。リヨンは銀貨の入った袋を見せびらかす。

「当座の資金として、一人にデニエ銀貨5枚を渡す。パンは買えるだろう。町に行って必要なものを買うといい。生活が安定するまでは支援する」


 リヨンは家から三十本の短剣を持ち出した。

「ゴブリンから奪った武器だ。町に行って売ればいい。豚を何匹が買ってこられる金額にはなる」

「じゃあ、3人で今からいってくるぜ。村長」

「いってらっしゃい」


 リヨンはターナーとフリーマンを含む三人の農夫を見送った。荷車には大量の短剣を積み込んでいる。

 どっちみち、冬を越すには豚が必要だった。森に放した豚に木の実を食べさせて、肥えさせる必要があるからだ。


 大工のカーペンターがリヨンの袖を引っ張る。

「私も作業に入りましょう。ダークエルフの方に負担をかけるわけにはいきません」

「カーペンターさん、荷物の整理は終わりましたか?」

「家財は焼けてしまって。大したものなど持ち合わせていません」

「では、お言葉に甘えて家へ入ります」


 カーペンターには十五歳の一人息子ドミニコがいた。息子が立派に育って満足していると言っていた。

「ダークエルフ? 初めてみたぜ」

「そうか。初めて見たのか」


 さっそく、大工は家を作り始めた。家作りは四人に任せて、リヨンはダークエルフの集落に向かう。黒パンを肉と替えてもらうために。


 柵で囲まれた集落の入り口には、剣を腰に差した警備がいた。集落を守っているのは背の高い銀髪のダークエルフだ。

「リヨン殿、荷物を確認する」

「今日はパン6個と葡萄酒を持ってきた」

「通ってくれ」


 今日は族長の家に寄る必要はないので、まっすぐ集会所に向かう。彼は集会所でウサギ二匹と鹿肉の固まりを手に入れた。

「ディオ、次に来るときはもっと良いものを持ってくる」

「良い酒を期待している」


 夕食はウサギ肉のシチューにする。ヤギのミルクをたっぷりと入れて、うんと甘くした。

「完成したぞ。力を込めて作った料理が」

「うまいな。食べやすい」


 

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