第15話 今日は宴だ

 【前回までのあらすじ】

 リヨン達四人は村の戦力を強化するため、"東の村"に武器を取りに行く事にした。ダークエルフのアーテルとセピアも道先案内人として同行している。四人は"忘れられた道"を通って、東の村にたどり着いた。


 武器庫ではアーテルの族長就任に必要な"フルゴルの剣"も見つかった。当初の目的は達成できた。

 四人は持てるだけの武器を抱えて武器庫を出る。


 アーテルが重たそうな扉に細工をする。

 今、扉を開ける権限を持つのはアーテルとクルーデリスしかいない。

「また来るの?」

「必要になった時に」


 四人は手に入れた武器を草むらに広げた。

 七本の長弓と矢、二本の槍、十ニ本の剣がある。

 青色に光る長剣は"東の村"では二三を争う切れ味の魔剣のようだ。

 片ひざを床に着いたアーテルが魔剣を差し出した。

「これをリヨン様に献上します」

「くれるのか? アーテル殿」

「差し上げます」


 リヨンは鞘から青色に輝く刀身を抜き出して、軽く素振りをした。

「軽いな。扱いやすそうだ」

「ああ その剣には特殊な魔法が付与されてます。魔力を流す事で重さが変わるので」

「面白いね。ミスル銀の剣よりは斬れそうだ」


 リヨンが軽く振っただけで、木が簡単に切断された。

「これは良いものだな」

「感謝します。これも持っていってください」


 そう言って、アーテルが差し出したのはミスル銀製のチェーンメイルだった。ミスル銀製はかなり丈夫で軽いと評判だ。

「剣の斬撃を防げますよ」

「アーテル。貰っていいか?」

「はい」


 五人は来た道を帰り始めた。石畳が敷かれた"忘れられた古道"を通る。ノワール村には明日の夕方までには到着するだろう。


 日が暮れて月が出た夜にようやくノワール村に着いた。

 アーテルは一直線にダークエルフの住みかに向かった。

 

 リヨンが「おぉ!エルフがいっぱいいる」と言うと、村人達は四人に向かって走って来た。

「よくぞ、ご無事で!」

「出迎えに感謝します。クルーデリス殿、ウィレム殿」


 ダークエルフは狩りに出ていたようだ。二人は片手に槍を握っていた。

「リヨン殿、大きなボアを捕まえまして」

「それはよかった。よかった」


 銀髪のクルーデリスが小人のプーリミリオに目を向けた。

「ところでそちらの方は?」

「オイラはボーロ。各地を回る旅人さ」

「まぁいいでしょう。村への滞在を認めます」

「オイラは明日には帰るぜ」


 三十人のダークエルフを食べさせていくのは大変だ。森にいる動物にも限りがある。

「森で木の実やクルミを取ってきた。後で分けましょう」

「クルーデリス、今夜にも族長就任のあいさつをしたいのだが」

「それはそれは… おめでとうございます。族長」

「"フルゴルの剣"が見つかった。ウィレム、今夜は宴にすると皆に伝えよ」


 リヨンはダークエルフに剣を十一振り、槍を二つ、長弓を七つ渡した。この武器があれば村はより強くなるだろう。

「では、我々は仲間に会いに行きます。歓迎の準備をしておいてください」

「わかりました。我らも準備を整えておきます」


 

 二時間後、ダークエルフが住む集落で宴会が始まった。

 たき火が炊かれた広場にはテーブルが出され、その上には色とりどりの木の実が置かれている。串焼きにしたボア肉からはじつに香ばしい匂いが漂ってきた。



 ダークエルフは全員が参加しているわけではないが、警備担当以外の者は会場にいる。

 族長の息子であるアーテルが姿を現した。

 彼は他のダークエルフよりも若いが、武力に優れていた。そして腰には"フルゴルの剣"を差している。

「アーテルだ。本日をもって族長に就任した」


 族長となったアーテルは深々と頭を下げた。

「ダークエルフの方々には礼を申し上げます。今日まで仲間に支えられたからこそ、今があるのです。そして、リヨン殿とセレナ殿には種族の危機を救っていただき感謝します。今日は存分に肉を食べて、酒を飲んでください」


 リヨンの目の前にアーテルが座った。

「アーテル、東の村に探検隊を派遣したいのだが。武器を全て回収したい」

「賛成です。10人ほどを村に派遣しましょう」

「では、クルーデリスをリーダーとして明日出発させます」


 族長のアーテルが手を挙げると、料理が次々と運ばれてきた。リヨンとセレナは舌鼓を打ちながら食事を楽しみました。


 リヨンは串焼きのボア肉に食らいついた。身体は肉を求めていた。やっぱり、肉は最高に良い。

 特に鹿肉のシチューは絶品で。鹿肉は弾力があるから噛み応えがある。そしてヤギのミルクはクセがありますがまろやかな味だ。

「うまいなセレナ。今度串肉を作ろう」

「わたしも食べたい」


 セレナは完全に出来上がっていた。顔が赤い。




 宴会の最後を締めくくったのはローストされた肉だ。配られたナイフを使わないと食べられないほどに。固すぎて噛みちぎれない。

「アーテル、固くて噛みごたえがある肉は久しぶりだ。次からは葡萄酒で煮てみるといい」

「参考にします」


 その日、村では人とダークエルフが酔っぱらって過ごした。

 人間とエルフも変わらない。

 みんな、酒を飲んで酔っぱらっていた。



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