第10話 ヤギの名前は?

 リヨンとセレナは森の中を歩きながら、今後の開拓予定を話し合っていた。

「家畜も増えたからヤギでも飼いたい」

 

 セレナは自身の願望を語りだした。

「わたしは牛を飼ってみたい。牛もヤギに負けないぐらい役に立つと思うぞ」

「牛にすきを引かせば畑を耕せるし、うんこは肥料になる。でも牛は高いからな」

「銀貨30枚いるね」

「高いのが難点だよ」


 セレナは口から出任せが多く、思い付きで何でも話す。

「牛乳を村の特産品にすれば町や村で稼げるのに」

「それじゃあ、人を雇って牧場をやった方が早い。そこまで手が回らないよ」


 二人が森に来た理由は木を入手するためだった。

 リヨンは片手に持ったノコギリで細い木を切り出した。二人は木を担いで村に戻る。

 セレナを気遣うリヨンを横目に、セレナは気丈きじょうに振る舞った。

「重くないか? 」

「うん」

「大丈夫か。持てるか? 」

「何とか」


 セレナはなぜ作業を手伝わなくてはならないのかと、グチグチと文句を言っているが。これが夫婦と言うものだろう。

「ダークエルフに小屋作りを手伝ってもらえれば良かったのに」

「彼らにも生活がある。迷惑はかけられない」 


 そもそも、ヤギ小屋を作ろうと言い出したのはリヨンだった。

「そもそも、ヤギ小屋を作る必要はあるのか? 」

「3頭のヤギはミルクを作る。村にとっても、俺たちにとっても有益だろう」

「そうじゃな。ヤギのミルクはクセがあるが。チーズが食えるならよい」



 セレナが持つ世界観は食を中心に回っていた。

 これはリヨンと結婚しても変わらず。むしろ、悪化している。

 そもそも、里に降りたエルフは食欲旺盛しょくよくおうせいなものが多い。森での単調な食生活とは違って、人間の食生活には多様性がある。


 二人はあれこれと話しているうちに村に戻った。すでに小屋を建てる手はずは整えている。

「じゃあ。穴から掘ろうか?」


 両手にスコップを持ったセレナが地面を掘る。

 リヨンも負けじと片側三箇所に穴を掘る。

 二人は六箇所に穴を掘って、柱を立てる深さを確保した。


 屋根の垂木同士を紐で合わせ、屋根の垂木と柱をひもで結び合わせれば、小屋の骨組みは完成する。


 次に若木を柱と柱の間に通して壁を作る作業に入った。ヤギが壁を越えないよう、高さは半分より高い程度でいい。

「セレナ。次は屋根を作るぞ」

「そなた、わたしは腹がすいた。先に何か食わせて」


 リヨンがヤギのミルクを鍋に入れて温めていた頃、セレナは朝に作った豆のスープを木皿に入れていた。

「今日のスープは? 」

「レンズ豆のスープ」

「豆ばっかりだ。たまにはベーコンの入ったスープが飲みたいよ」

「たくさんあるから。後でダークエルフに持っていこうと」


 ヤギのミルクは冷えた体を芯の底から温めてくれる。

 それに比べると、レンズ豆のスープは質素に感じる。でも、何も食べないよりはマシだ。

「豆とスープの貧しい食事ばかりだ。肉が食べたい」

「にわとりを飼えばいいと、わっちがあれほど勧めてやったのに」

「にわとりは住民が増えてから飼おう」

「約束だぞ。リヨン」

「俺は約束を守る男だ。男に二言はない」

「言ったな! 忘れぬぞ」


 セレナは自己共に認める食いしん坊。

 リヨンもそう考えていた。たまには妻をからかうのもよいと。

「ああ。ワタシは鶏肉が食べたい」

「あいにく村に鶏はいないが森にバジリスクはいるぞ」

「バジリスク…… 」

「ハイエルフがバジリスクごときを倒せないと」

「それは誤解じゃ」

「魔法で丸焦げにするなよ。せっかくのバジリスクが台無しだ」


 二人は食事を終えて作業に戻った。

 セレナは屋根をふく素材に心当たりがあったのです。

「そなた、森から杉皮を剥いでくるか?」

「いや、屋根にはわらをふこう」

「余った分だけで足りるかな」

「足りるだろ」


 屋根にわらを積み重ねるようにして載せる。

 最後に小さい丸太を並べて作った階段を作った。

 ヤギを呼ぶためにリヨンが口笛を吹くと、三頭のヤギが走ってきた。

「ヤギに名前をつけよう」


 青年はねずみ色のヤギに「ラウム」。優しそうな顔つきの白ヤギに「ピウス」と名付けた。

 リヨンがもう一頭の黒ヤギに近づくと、頭突きをしてきた。リヨンは黒ヤギの度胸を称えて「フォルティ」と命名する。


 結局、ヤギ小屋の建築には一日かかりました。

小屋にはきちんと屋根があり、高床式の床をしっかりと備えている。


 夕食はミルク粥のボリッジを作った。

ちょうど、石造りのキッチンでは鍋が沸騰ふっとうしている。セレナは机に置いた鍋から熱々のボリッジを木皿に入れた。

「ヤギのミルクを入れると食べやすいな」

「でしょう。牛乳と違ってクセがあるけど」

「毎日のように黒パンが続くと飽きてくる。たまには違うものも作ろう」

「それは考えているが野菜がない。わっちは王都で種を買わなかった事を後悔している」


 パンとボリッジが主食の現状を変えたい。二人の認識は珍しく一致いっちしていた。

「冒険者の時は好きなものを食べれたのに。果物が食べたい」

「今度、町に出たら買ってやるから。村にも生えてるぞ」

「ほんと? 男に二言にごんはないぞ」

「わかってる。今度取ってきて食べさせてやるから」



 ○村人

 リヨンとセレナ

 ダークエルフは十名

 アウィスは一頭

 ヤギは三頭


 

 


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