第11話 ローランド辺境伯と会談する

 リヨンとセレナはアウィスに乗って辺境伯が治めるシュタルクを訪れた。

 リヨンは赤いジャケットに青いズボンという出で立ち。腰には茶色いベルトを巻き、茶色い革財布をぶら下げている。

「リヨンです。本日、辺境伯殿に面会の予定があり…… 」

「はっ。確認をとります」


 門番は水晶を手にかざして屋敷に確認をとった。水晶は声を伝えるので情報伝達に欠かせない。

「リヨン殿、確認が取れましたのでご案内します」

「アウィスはどこに? 」

「馬小屋に繋いでおりますので安心を」


 馬車には布の屋根があり、二輪が付いていた。

石畳の道には馬車が行き交っている。このシュタルクには馬車が普及しているようだ。

 ニ人は城のふもとにある辺境伯の屋敷に案内された。屋敷は一階が石造りで、木造で作られた二階には丸いロンデル窓がめられている。

「ガラス窓か。裕福なんだろうな」


 私服姿の辺境伯が玄関前で待っていた。

「リヨン殿、遠路はるばるご苦労であった」

「辺境伯殿、出迎えに感謝します。今日は折り入った話が」


 大広間で辺境伯とリヨンとの対談が今始まる。

「人払いをした。リヨン殿から折り入った話から聞こう」

「私の村で保護したダークエルフから村が襲われたと聞きました。騎士が持っていた旗には赤いグリフォンのマークがあったと」


 辺境伯はあごに手を当てて考え込んでいた。

「赤いグリフォンの旗ならオルラン公に違いない。確かにオルラン公の乱行は目に余る。機会があれば除かねばならないな」

「ダークエルフによると、女のエルフが連れ去られたそうです。奴隷として売りさばくつもりでしょう」

「この件は王国に報告しよう」


 辺境伯が声を小さくして言う。

「本題に入ろう。魔族が村を襲い始めた。家を失ったものも多い。我々も騎士や魔法使いを揃えているが…… 」

「動員数が限られると? 」

「それもある。魔族に畑が荒らされ、小麦の収穫量が低下している。大規模な侵攻となれば食料が不足するだろう」

「長期戦は好ましくないですね」

「そうだ。食料を確保し、短期で決着をつける必要がある」


 辺境伯はリヨンに相談を持ちかけられた。

「魔族によって一つの村が壊滅した。生き残ったベルン村の住人には移住を希望するものもいる。受けていれてくれるか?」

「移住を希望する人数は? 」

「農民が10人ほどいる」

「受け入れましょう。村に帰ると家作りに励まないといけませんが」


 リヨンは考えた。このままではノワール村も危なく、魔族侵攻の巻き添えを食らうと。今の人数では大規模な侵攻に対抗できない。

「食料と兵士を集めなければなりませんね。何が妙案は?」

「実は行き場を失ったダークエルフを10人ばかり保護している。彼らを兵士として雇い入れた」

「それは初耳です」

「確か、リーダーはエドと言ったな。ダークエルフは役に立つ」


 リヨンは椅子から立ち上がった。

「国王は勇者一派が力を持つことを良いと思わないでしょう。勇者を驚異として感じているはずです」

「俺が国王ならリヨン殿を殺しているだろう。魔王を倒すほどだからな」

「国王からの支援は望めません。頼りなのは辺境伯だけです」

「言ってくれるな。リヨン殿」

「では私はこれで失礼します」



 会談後、二人はシュタルクを散策した。街は相変わらず賑やか。

「そなたは腹が減ったか? 」

「もう。ペコペコだよ」


 パン屋台から歌が聞こえてきた。どうやら、クロスパン売りが歌を唄っているようで。

「暖かいクロスパン! 暖かいクロスパン! パンが1リュート、2個で2リュート、1リュートで買える幸せのクロスパン」


 ウーブリ職人も負けていない。歩きながらも声を張り上げてお菓子を宣伝している。

「さあ お楽しみの時間だよ! ウーブリはいかがかな! 」


 横の菓子売りも声を高くした。金髪娘が愛嬌を振りまいて、丸い揚げ菓子を見せびらかしていた。

「揚げ菓子のベニエはいかが! 甘いよ」

「2つくれ」とセレナ。

「4リュートです」


 ベニエは小麦粉で作ったパン生地を油で揚げた菓子。セレナが一口かじって「甘い」と言うほどだ。蜂蜜と粉砂糖の組み合わせは最高だろう。

「セレナの喜ぶ顔が見たかった」

「わたしの顔が見たいならいつでも」


 二人はその足で野菜を買いに行った。玉ねぎ、ニンジン、ニンニク、カブ、乾燥させたえんどう豆をリュックにめた。

「帰ろっか」

「クレープが食べたい」

「わかった。わかったよ」


 屋台から野菜屋に向かう途中にクレープ屋があっった。二人が店に行くと、丸い鉄板プレートの上でクレープを焼いてくれた。

「バタークレープをくれ」

「わっちはコンプレットを」


 店先で店員がクレープを焼き始めた。炭火焼きのいい匂いが店先までだだよう。食欲をそそる匂いだ。

「できましたよ」


 クレープ職人の本領発揮。手慣れた動作は見ていて気持ちがいい。

 コンプレットは目玉焼きに加えてハムとチーズをクレープに入れたもの。小麦が好きなセレナは嬉しそうにかじりついた。

「うまいか? 」

「うん」

 

 二人は繁華街から辺境伯の屋敷がある通りに向かった。といっても、帰りは来た道を戻るだけになる。門番は馬屋に繋いだアウィスを二人の元に連れてきてくれた。

「とてもおとなしい子でした」

「ありがとう。助かったよ」

「帰ろっか。セレナ」



 ○辺境伯の屋敷はイメージ的にはイギリスのIghtham Mote

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