第69話 別れ〈わかれ〉
だがそれは逆効果となってしまった。
時には故人が望まない結果ともなってしまう。
人の感情というものは、本当に難しいものだ。
娘である
だが、
そして徐々に死が迫っていく
そんな
籍を入れている訳でもない、一緒に生活をしたことも無い、そんな相手を縛り続ける事を
そんな
そんな
確実に
初めてあった時、
『生涯貴女を愛し続けます』と・・・。
今の
入社時、男性社員の中で話題が尽きない程の、評判の新入社員。
勤務も勤勉で会社の顔である受付業務を担当しており、顧客からの評判も良い。
おまけにとても若く、器量良しで容姿端麗である。
そんな女性が明らかに
ある意味、
そんなチャンスを捨ててまでも
そもそも
今思えば、
だが、この状況は逆に今の
情けない話だが正直、
今、会えなければきっと後悔する。
そんな事は百も承知だ。
だが
とっくに会社を去り、実家に帰っているのかもしれない。
思い悩むことは多いが、仕事に対して以前より真剣に取り込む事により、それらを忘れたかった。
以前より一層精力的に仕事に努めていた。
細かい事は解らないが、プロジェクトの進行状況など管理者に必要な情報は、ほぼ掌握する程に管理業務は行き届いていた。
恩師でもある、
そういった日々が何日も続く。
業務に全神経を費やして数日経った頃の話である。
政幸は通常どおり業務に従事していた中、背後から怒りが混じった様な声が聞こえて来た。
「何やってるんですか!
声の主は
「
「どうしたですって?!」
「貴方、今日がどういった日か解っているのでしょう!?」
「いえ、解りませんが?・・・。」
「あれ程、
やがて、平生見せる表情となり、ため息をついていた。
「状況は大体予想が付きました・・・。」
「
「でも、私の態度で何となく察したと思いますが、貴方に誤魔化されては気分が良くないのであえてはっきり言いましょう。」
「今日は
それが近いという事も、中途半端に覚悟していた。
だが、はっきりとそう言われてしまうと、さすがにショックで言葉を失ってしまった。
「数日前、
「こんな外注の清掃員に律義にね・・・。」
「怪我をした育ての親である伯母の為に会社を退社し、帰郷する事を話してくれました。」
「おせっかいだと思いはしましたが、
「そしたら、私の想像もしていなかった言葉が彼女から告げられました。」
「『おじさんとはもう会わない』と・・・。」
まるで、その時の
やがて、ゆっくりと目を見開き言葉を続けた。
「ものすごく、悲しそうな表情でした・・・。」
その言葉を聞き、
しばらくの間、沈黙が続いた。
おもむろに溜息を吐き、沈黙が破られた。
「これは一生話さないつもりでしたが・・・以前話しましたよね? 私には今は亡くなってしまった、息子が一人居ました・・・。」
「私はね、貴方を見て息子が生きていたらと色々想像していたのです。」
「つまり貴方と息子を重ね合わせていたのです・・・。」
「貴方と何気ない会話をしたり、酒を酌み交わしたりして息子と実現できなかった事を貴方を通して楽しんでいたのです・・・。」
「失礼ながら貴方は、私にとって息子の様なものだと感じていたのです・・・。」
その性格から
「息子が見す見す、幸福を掴むチャンスを見過ごせる親が居ると思いますか?」
だが、
それは、
「
「でも、俺・・・
やっとの事で発言した言葉は、
「確かに余計なお世話かもしれないですね・・・。」
「現実では親でも親戚でもない私が口を出すべきではないかもしれない・・・。」
「だがあえて言わせてもらう!」
「実の息子と、息子の様におもっていた貴方・・・。」
「二人の息子に共通しているのは、親不孝な事だ!」
「実の息子は親より先に亡くなってしまった! 実に親不孝だ!」
「息子の様に思っていた貴方は、掴める幸福を掴もうともしない!」
「そんな状況を目の前にして、見過ごせる訳はない!」
それはとてもありがたい事だ。
だが・・・。
「
「忘れる必要などない! 二人共受け入れればいいだけだ!」
「
「
何を言ってもこの調子で返されてしまうのが、想像できた。
「だったら、俺はどーすればいいんだ!?」
この後の
だがあえて、この言葉を口にしてしまった。
「今すぐ駅に走れ!」
想像通りの発言内容だった。
「だけど、今は勤務中だし・・・。」
今は勤務中である。
業務を投げ出す訳には行かない。
「何か正当な理由があれば勤務など途中で抜けられるはずです。」
だがその表情は、得意なスポーツをした後の様なすっきりとした表情となっていた。
「人にとって人生の伴侶に巡り合う事以上の大事な事はありません。」
そんなの許されるはずはない。
「私は息子が亡くなった時、当分立ち直れなかった・・・。」
「だけど私には妻が居た・・・。」
「妻が居たからこそ、互いを支えあい立ち直ることが出来た。」
「私にとって妻は何事にも代えられないものだ。」
「妻に何かあれば、私は全てを投げ出しても駆けつけるつもりです。」
だが、
「
「そして訳を話せば理解してくれる人だと私は見ています。」
「そして、私の立場は社内の清掃を担当しています。」
「役員ブースだろうが社長室だろうが私は入室できます。」
「後の伝言は私に任せてください。」
「
「わかったら、駅へとっとと行け! バカ息子!」
「茂さん! ありがとう!!」
何十年被りに、息子と親子喧嘩をした様な懐かしい気分となっていた。
この日記帳は
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