第68話 手記〈しゅき〉
一文字一文字、ゆっくりと丁寧に読み続けていた。
中学入学の際に何かを始めてみようと思ったのだろう。
一日一日の文字数は然程多くはなく、一ページに数日分の日記が書き込まれていた。
あまり裕福では無い家庭の環境の影響か一日一ページといった使い方はしていない様だった。
内容は記録というより感想や心情といった具合で、日記というより手記に近いものといった印象だった。
短文で綴られた日記の中で、長文な日記もあった。
その大半は、『矢野さん』という文字が含まれている物だった。
若かりし日の
正確には
下校時の生徒が集まっている下駄箱で見ず知らずの上級生からいきなり告白され、混乱してしまい泣き出してしまった事などが記されていて、
この日は校内中の噂の的となっており、登校時から他生徒から好奇な目で見られ恥ずかしい思いをしていた事、学校に到着してもその視線は変わらず、むしろ多くなっていた。
とどめは自分のクラスに入ったところ、クラスメイトからその事について問い詰められたりからかわれていた。
それに激怒してクラスメイト達を窘めたのが
そしてこの日の晩方に事件の発端である、
最初は正直会いたくなかったが、
突然向けられた行為に対して、どう対応すれば良かったのかが解らなかったようだ。
あの時の
その後は友人関係が壊滅的な兄である
あくまでも兄の親友といった立ち位置に過ぎなかった。
そこから当分の間、
実母の死をえて
内容はほぼ心配事であり、
そして
元旦那から積極的にアプローチを受け、
だが結果、離れている
元旦那と結婚への話が進みつつある時も、常に
結婚が本決まりになり、結婚式当日、
その後の妊娠、旦那との不仲、そして出産。
元旦那との関係を何とか改善しようと努力をしている様子が内容から伺える。
日記の内容は自問自答の繰り返しだった。
生まれて来た
だが、旦那のDVについには耐えかね、兄である
この頃の
不安を抱えながらも娘の為に生きて行くことを決心した中、兄によって
自分に好意を向けていたにも関わらず、結果的にそれを裏切る結果となってしまった相手との再会は内心はかなり同様していた様である。
だがそんな思いは杞憂であった。
再会した
その後の日記は、ほぼ
出戻りのコブ付きである自分を、受け入れようとする
現時点で助かる確率は半分以下との事だった。
こんな状態の自分に付き合わせる訳には行かない・・・。
そう決心した
真実を告げる事で
だがそれは逆効果であった。
一緒に病気に立ち向かおうと告げて来たのである。
迷惑をかけたくない故に離れようとしていたが、既に気持ちが固まってしまっていた。
この人と一緒に居たいと・・・。
闘病生活が始まり、最初は完治させることに希望をかけていた日記の内容も日が進むにつれ弱々しく変化して行った。
相変わらず
十年も自分の事を思い続けてくれた
自分が居なくなったら心配なのは、娘の
娘の
子供を望んでいたが今だ授かる事が無かった
それに対する対策でもあった。
どうして私はこの人と一緒にならなかったのか?・・・。
どうして私はこの人を待てなかったのか?・・・。
そして私はこの人にどうなってほしいのか?・・・。
私が居なくなっても、この人には幸せになってほしい・・・。
これを最後に日記は終わってしまった。
この後、死の間際の
おそらくだが、昏睡状態になる寸前で表紙に最後の力を振り絞りあの言葉を記したのだろう。
−私のことはわすれてしあわせに−
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