第64話 郷愁〈きょうしゅう〉
何か悩みを抱えているのは明確なのだが、聞いても話してくれない。
その状態の
その
だが少し気を抜いてしまうと最近の
現在の様に仕事に明け暮れていなかった、少し前の社内のお荷物扱いだった
考える対象は
最近は
良く知っている関係で現在も存在して居る
だが、
答えは全て、否であった。
過去の事ばかり考えていた。
良い思い出は過去の事ばかりだった。
無論、過去にも辛い経験はしてきた。
だがそれを差し引いても
だが今はどうだ?
思い起こすと、以前ほど過去の思い出に浸る時間は少なくなっていた。
仕事が充実しているからなのか?
人間関係が改善しているからなのか?
確かに今は仕事に対して前向きになっている。
それに伴い、プロジェクトメンバーとの関係は、元の部署の人間関係を考えたら、リーダーの
過去を思い出さなくなっている原因としてはどれも一つの要因ではある。
だが、決定的な要因は別にある。
それは
あえて、それを考えないようにしてきたのだった。
元気のない
状況が許せばその原因を聞きだし、
以前ならこんな思考をしていただろう。
だが
そんな
始めて来店した店だったが評判通り、実に美味だった。
値段はそれなりにするが、たまにする贅沢としては納得のいくものだった。
食事をしている
時折見せていた何かに悩み、思いふける表情もこの店では見せていない。
それだけでも掛かった費用の元を取ったような気分になっていた。
悩みを聞きだす事で、
食事を終え最寄り駅まで二人で歩いて行った。
「おじさん、ありがとう! すっごくおいしかった!」
喜びを精一杯表現した後、その表情は曇りかかっていた。
「ごめんね・・・おじさん・・・。」
「なんかわたし最近おじさんに気を使わせてばっかりだね・・・。」
「最近、故郷が恋しくなったのかな?」
「妙に実家に帰りたくなっちゃって・・・。」
「変だよね、こないだ帰ったばかりなのに・・・。」
「大学に入ってこっちで四年も過していたのにねぇ・・・。」
「五月病かな?」
乾いたような笑いを浮かべる
「五月病って・・・もう季節は秋だよ?」
「そーだよね・・・。」
「とっくに、
楽しかった雰囲気が一気に冷めてしまった。
一度、取りやめた当初の目的である
「実はね、来月有給もらったの・・・。」
新入社員に有給・・・良く取らせてもらえたものだ・・・。
「土日祝の後に二日間有給使って五日間一度、
故郷に帰って気持ちを整理する、今の
「だけど、そーすると心配な事があって・・・。」
「私が居ない間、おじさんが他の人に取られるんじゃないかって!」
「もう・・・心配で心配で・・・。」
無用な心配をするものではありません・・・。
「後、食事とか、わたしが居ないと変なもの食べそうで・・・。」
どんだけ信用がないのだか・・・。
「あのね、
「無用な心配しなくていいよ・・・。」
「おじさんはモテない事には自信あるし・・・
自分で発言して情けなくなってきた。
改めて自己分析をしてみると自己評価の低い事・・・。
「だから、心配せず帰省してきなよ。」
「向こうに帰ったら気持ちも晴れるかもしれないしね。」
二回り近く年齢の離れた娘に何を心配されているのか、だが以前の不摂生な生活を思い起こすとそれは無理も無い事なのかもしれない。
「わかったよ、おじさん!」
「おじさんを信じる!」
「ちょっとの間、寂しい思いさせちゃうけど、私が帰るまで待っててね!」
「わかった、わかったから・・・。」
「おじさん、わたしが居なくなったら寂しくないの?」
「わたしはおじさんと会えない日が続くのは寂しいよ?」
顔を背け表情を悟られないようにする。
「全く・・・おじさんをからかうのはやめなさい・・・。」
平生を装っては居たが必死の照れ隠しだった。
「おじさん・・・もしかしてテレてる?」
図星だったがそれを悟られない様に抵抗をしては見る。
次月の頭の週末、
金曜日の業務終了後そのまま帰郷した為、ホームまで見送った。
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