第58話 自宅休養〈じたくきゅうよう〉
過労により入院した翌日、
最近は業務が充実しており激務ではあったがやりがいも感じられていた。
だか突然訪れた思わぬ休養に
プロジェクトは方向性が定まってきたところだ。
今が一番大事な時期でもある。
そんな状況で休んでいては話にならないのではないか?
ふと、
『会社に出勤する以外は何をやってもらっても構いません。』
そして
急ぎノートPCの電源を入れてみた。
ログインIDとパスワードは社内のPCと同様に入力してみた。
ログインできた。
ディスクトップには様々なショートカットがあった。
正直
『使い方が解らないなら
「もしもし、
「体調はどうですか?」
「
「唐突に悪いが、パソコンの使い方教えてほしんだけど・・・。」
唐突で曖昧な表現だった。
「あの
PCの使い方と言ってもPCの何が知りたいのか伝えきれていない。
PC自体のOSの使い方なのか、インストールされているソフトの使い方なのか、周辺器具の使い方なのか明確に伝えていない。
当然ある程度PCの知識のある人間からすると何について質問されているか理解できない内容であった。
社内サーバーの入り方、ファイルの展開方法、共用ファイルの閲覧方法など、
「基本的な使い方はこんな所ですかね?」
「まあまだまだ便利な使い方もありますけど、PCなんて習うよりも慣れろですからね。」
「まあ解らない事がありましたら、また連絡してください。」
「
「今日一日は君の言う通り色々触ってみるよ・・・。」
電話を切った
数時間PCを操作していたところ、
プロジェクトに参加している個々人の名前がファイル名となっており誰がどのファイルを作成しているのかが確認できた。
殆どが表計算ソフトのデータであり作成した個人個人が何を進めているのかが理解できた。
中には意見として出ていない物や、進行中であるが不備が見受けられるものも確認できた。
意見のやり取りをPCでする事により場所を選ばず、しかも内容が残っている為エビデンスにもなる。
慣れないPC作業を続けていたせいか肩が凝り固まっていた。
朝から食事すら取る事も忘れていた。
PCの作業は時間、場所に関係なく何時でも作業できる。
ある意味労働環境としては危険な物だと感じてしまっていた。
何かの勧誘かと思って気だるそうに部屋の扉を開けた。
そこに居たのは
「えへへ、来ちゃった・・・。」
『来ちゃった』じゃないと突っ込みを入れたかったが、茉莉は満面の笑みを浮かべ悪意は感じられない。
両手には大量の食材を抱えていた。
「初めてだね・・・おじさんの家入るの・・・。」
こんなボロアパートを見て何が嬉しいのか・・・。
「今日はおじさんの為にご飯を作りに来ました。」
炊飯器や電子レンジ、
鍋、フライパン、包丁、まな板、菜箸くらいはあるが調味料すら全くない・・・。
「予想通り、調味料すらないね・・・。」
「でも大丈夫、お米も調味料も買ってます!」
「おじさんのキッチン周りなんて予想済みだよ!」
台所から良い匂いがする・・・。
「もうすぐ出来るからね・・・あ・な・た!」
やけに機嫌がいい・・・。
だが
「おまたせ、おじさん!」
「ごめんね、簡単な物ばかりで・・・。」
野菜炒めに卵焼き、味噌汁・・・これって簡単な物なのか?
「おじさん、どうせ何も食べていないと思っていたからスピード優先で作ったの。」
的確な判断ありがとう・・・。
確かに朝から何も食していない・・・。
「うん、おいしいよ
いつも作ってくれる弁当も旨いのだが、出来立ての料理はまた格別である。
「本当!? 嬉しいな!」
「会社帰りに作るから簡単な物しか作れないけど、毎日料理作りに来るよ!」
毎日ここに来るって事か・・・?
さすがにそれはまずいだろ・・・。
「いや、でもそれはさすがにまずいでしょ?」
「おじさんと
「じゃあわたしもここに住む!」
ある程度予想はしていたが、これはさすがに了承しかねない。
「ダメ!」
「え~っ、なら毎日ここに通う・・・。」
「お願いおじさん! わたしがおじさんの為にしてあげたいの・・・だから解って・・・。」
以前なら絶対に拒絶していただろう。
明らかに
「わかったよ・・・
「ただし俺の家の最寄り駅に到着する時間を連絡する事、迎えに行くから・・・。」
「帰る時は駅まで俺に送らせる事、これ絶対条件ね。」
「うん、わかったよ!」
「これから毎日、おじさんの通い妻になるね!」
また
「通い妻って・・・。」
全く質の悪い冗談である・・・。
「おじさんの胃袋をゲットして、通い妻から正妻の立場になってやるんだから!」
そして照れ隠しで冗談じみた事を言っているが全て本気だとも・・・。
周辺の反対はあるかもしれないが少なくとも当人同士の了承は得る事は出来る。
だが、今の
『それにおじさんは、わたしの事まだ一番ではない様だし・・・。』
その時の
言葉の通りだった。
確かに
だが
それは年月が経つにつれさらに大きくなっていく。
自分の事は忘れて
そんな
ふと
『亡くなった人は手強いわね。』
『思い出はどんどん美化されていくものだからね。』
過去をあまり振り返らなくなったと言えど、今だ
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