第57話 上京〈じょうきょう〉
故郷での営業所所長である
環境が変わる事により
本社で一旗揚げてほしいとの願いで
答えは否である。
周囲からいくら期待を注ぎ込まれても、割れた陶器や磁器の様な心はそれを受け止める事は出来ない。
注がれた期待は全て流れ出していった。
『立派な大人になる』
漠然としない目標ではあるが今更ながらに意味が解らなくなっていた。
幼かった頃、大人は皆立派であると思い込んでいた。
だが大人になった自身を振り返るとどうだ?
努力もしてきた自信はある。
一途に人を愛した経験もある。
だが努力の仕方を間違っていた為一時的に最愛の人と縁が無くなり、一途に思い続けても結局その人を永遠に失ってしまった。
何故努力を継続出来、愛し続けていられたか?
物凄く卑しさを感じた。
結局、
立派な大人ってなんだ?
そんなものは存在して居ないのではないか?
子供の頃から何も変わっちゃいない。
上京して人間関係は一からやり直さなければならない。
心許せる親しい人達は居ない。
唯一の楽しみも今はもう遠い存在となっていた。
人と関わり情が深くなればそれを失った時のショックが大きすぎる。
ならば最初から関わらなければそういった感情からは逃れられる。
自然と人との関りを避けるようになり、そのせいかぶっきらぼうな態度になってしまい社内での
また煙草休憩も多く取っていた。
以前はそれ程煙草の本数は吸っていなかったのだが、人とのコミュニケーションを避けている為か一人で居る事が多くなり煙草を吸う本数も増加していった。
最愛の
健康被害の事などまるっきり頭になかった。
煙草休憩イコールさぼりといった風潮になりつつあったこの頃である、更に
また、転勤してからは当然一人暮らしになっていた。
食事は食べたいものしか食べなくなっていた。
栄養価など考慮しない食事、炭水化物過多な食事、食べたいときに食べ、食べたくない時には食事を取らない、そんな生活は
気付くと社内で孤立した、社内の厄介者の出来上がりである。
業務は最低限しかこなさず、人付き合いは避け、見た目も醜い、好かれる要素などない。
そこには期待されていた若手社員の面影すらなくなっていた。
親友の
上京する際、
一旗揚げて来いとそして帰郷した際はその話で盛り上がろうと・・・。
上京して成功して帰郷した際には
早く帰って来てと、おみやげ楽しみにしてると・・・。
だが
こんな
後ろ髪を引かれる心境であったが
振り返ると、立ち尽くしながら泣きじゃくる
乗り込んだ新幹線車内で何度もあの姿を思い起こしていた。
思い起こす度に胸が締め付けられる気分だった。
そして時が経っても、時折ふとその姿を思い出す事がある。
何故か印象に残る姿であった。
今後
時は平成二桁になった翌年。
西暦は1999年、預言者の世界滅亡の年だった。
欧州連合では新通貨であるユーロの本格導入がこの年始まった。
銀幕は16年ぶりに制作されたスペースオペラが話題となった年の出来事。
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