第55話 愛娘〈まなむすめ〉
与えられた業務をただ淡々とこなしていく日々。
業務改善や意見は一切口に出さなかった。
以前の様に仕事への情熱が感じられなかった。
仕事だけではない、仕事以外もただ生きているだけの状況だった。
なんの楽しみも無い、やりたいことも無い、ただ一つの事を除いては。
そして
大きなミスや会社に被害を与えている訳でもない。
問題があるとするならば同僚への態度である。
同僚とのやりとりでは感情が無機質なものとなっており、以前の様な愛想は全く感じられなかった。
人と付き合う態度がただ淡々としており感情というものを感じさせなくなっていた。
営業所の人間は
以前の
それは毎週終末になると当り前の様に行われていた親友である
自分の事を誰より理解してくれる
そして
「全く
両手を腰に当て呆れる様に話す
「
馬鹿親である・・・。
「わたし、お嫁さん?」
「わたし、おじさんのお嫁さんになるの?」
「
何度も言うが馬鹿親である・・・。
一生娘を傍に置いておくつもりか・・・。
「わたしおじさんのお嫁さんになる!」
更に
「まつり~っ、本気なのか!?」
「うん!」
「で、でもさ・・・お嫁さんになるには大人にならないとダメだから・・・。」
見ていて相当面白い・・・。
「なら大人になったらおじさんのお嫁さんになる!」
顔面蒼白になる
「うんそうだな・・・俺と
「
そろそろ止めを刺すか・・・。
「その時は宜しくな!」
「お義父さん!」
完全勝利だな・・・
「
「
(うんうん、
感情的になる
「男共!、馬鹿なこと言ってないでとっとと食事に手を付けなさい!」
「
この家の主は
男達は大人しく食事を再開した。
「伯母さん、わたし大人になったらおじさんのお嫁さんになるんだ!」
箸がとまる
「そうなんだ、きっとかわいいお嫁さんになるね
こういう時は男より女の方が精神的には強い。
「早く大人になりたいな・・・結婚式はドレスが良いかな・・・着物が良いかな・・・。」
持っていた箸を落としてしまう
本当に見ていて飽きない。
「
「絶対、嫁にはやらんぞおおおおおぉぉぉっ!」
雄叫びを上げる様に叫ぶ
「黙れ! 馬鹿亭主!」
実の母親を亡くした幼子であった
だが積極的に
伯父とはいえ近しい存在に血のつながった人間が存在して居る。
またその妻の
親友の忘れ形見を愛情深く育てない訳がない。
妻にこそできなかった
だが結果として
楽しい宴の時間も終盤となっていた。
食事も平らげ程よく酔いも回っている。
「実は、まだ内示すら受けてないんだが、どうやら転勤になりそうなんだ・・・。」
転勤があることぐらい想像に容易い。
「そうか・・・勤務地はどこになりそうなんだ?」
「東京だよ・・・。」
「東京!? もしかして本社勤務か?」
「ああっ・・・。」
「すごいじゃないか! 栄転じゃないか!」
だが
まるで転勤を望んでいない様な・・・。
「政幸よぉ、おまえは転勤を望んでいない様だな・・・。」
「東京か・・・確かに遠いな・・・。」
「だがある意味チャンスだぞ!」
「おまえはここでは普通に過ごせているように見えるが、実際は無理してるだろ?」
長年付き合いのある
「ああっ、その通りだ・・・。」
あえて、それを否定しない
「お前がどう選択するかは俺に決める権利もないし、決めた選択を否定しようなんて思っちゃーいない。」
「だがお前はこれからも
図星を付かれていた。
「まあ
「だがな
「
「だがよ、
「だったら心機一転して
それは手に取るように解る。
伊達に十年以上も親友をやっていない。
その心遣いが
そして安堵した表情となっていた
「そうだな・・・
「お前達と気軽に会えなくなるのは寂しいが、今の状況を変えなければならないのは俺も解っていた・・・。」
「ありがとな・・・
いつもこんな時、
「それに
「
「この馬鹿親!」
毎週の様に当たり前に行われていたこの団欒も内示が出てしまえば終了を意味する。
まして本社勤務となれば友人はおろか知人すらいない状況だろう。
人間関係は一からスタートする事になる。
今の
正直、その状況にならなければ解らない。
だが今の状況を変えなければならない事は
もし内示が出て
それがたとえ自分の意志とは正反対の希望であろうとも・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます