第52話 世話女房〈せわにょうぼう〉
本日は初日である。
勤務場所は顔合せが行われた会議室。
このプロジェクトの為の一時的なオフィスとなっている。
初日の仕事は朝から会議であった。
どんな意見でもいい、たとえくだらない事でも少しでも頭の中で考え付いた意見を発表する場となっていた。
最初は漠然とした会議議題だった為、意見はたいして飛び交わないだろうと
だがいざ会議が始まるとこの場はすごく盛り上がっていた。
あらゆる意見が飛び交う場となっていたのである。
会議議事録作成担当の
入力するキーのタッチ音が途切れる事のない程のスピードであった。
皆の士気はものすごく高い・・・。
やはり
そういえば顔合せの飲み会で二次会に向かおうと思った時、
会議は昼休憩になる前に終了させていた。
意見があまりにも多すぎた為である。
取り合えず
休憩を挟んで午後からは午前に出た意見を検討する事になっていた。
会議の延長みたいなものである。
会議には人数分の資料が必要だ。
これからその資料を作成しなくてはならない・・・。
今日は飯は抜きかもしれない・・・。
昼時間になったら連絡しないと後が怖い・・・。
そうこう考えていると
「一応出来ました、大丈夫だと思いますが確認してください。」
何が出来たのか
だがよく見てみると午後から必要な資料であった。
完璧な資料である。
出た意見全てが用紙にまとめられており、メモ欄まである。
飲みに行ったとはただの勉強だけできるバカだと思っていたが
次回からは楽できそうだ・・・。
飯抜きを覚悟していたのだがこれで一安心である。
早く戻って
そう考えていると扉が開かれていた会議室の入り口で中を覗き込んでる人物が居た。
こんな所まで弁当持って来たのか・・・。
「あら、下野さんじゃない?」
美春も気付いていたのである。
その声に反応した人物ももう一人・・・。
「下野さん!?」
「そんな所に居ないで中に入ってきなさい。」
手に弁当箱が入っている鞄を持って・・・。
「あらお弁当?
「今は休憩時間なんだから遠慮する事ないわ、ここで食事すればいいわ。」
責任者の許可が下りてしまった・・・。
明日から
「あらあら、
「私達はお邪魔のようね、行くわよ
退室の際
「やっぱり
「ねえおじさん、
黒髪のロングヘアで薄化粧をしており、男なら誰もが振り向く容姿を持っていた。
おまけに県下一の進学校に通い大学も日本で一番賢いと言われる大学に学校以外の勉強をせずに一発合格を果たしていた。
中学時代の
「今でも綺麗だと思うけどね、学生時代の
「おまけに頭も良くてさ、面倒見も良い、本当完璧な人だな・・・。」
「そーなんだーっ、昔から素敵だったんだね・・・。」
「おじさんはその時、
そんな事聞くまでもないだろう・・・。
「好きか嫌いと聞かれれば好きだったよ? 尊敬もしていたしね。」
「そっか、おじさんは振られちゃったんだ! 可哀そうに!」
待ってくれ、どうしてそんな会話になっている・・・。
「
「うん、わかってた!」
これがさっきの
当然だが、
茉莉は現在23歳、
あの頃は
目の前の
「好きな人か~っ、その人におじさんちゃんと好きって伝えられた?」
今日の
「それはそうさ、俺も若かったしね・・・出会った時からずっと言い続けていたよ。」
「いいな・・・その人・・・。」
「ねね・・・嘘でもいいから私に好きって言ってくれない?」
ただそれは恋愛の対象であるLOVEではなくLIKEという意味での好きであるはずだ。
「そんな事恥ずかしいから言えないよ・・・。」
もう昔の話だ、目の前の人物は当然
「お願いおじさん! 似た様な言葉でもいいからっ!」
(まったく・・・何を考えているんだ俺は・・・彼女は
誤魔化す為、意味を知らなければ理解できない言葉が思いついていた。
「月がきれいですね・・・。」
数年前に話題となったI Love Youの和訳を口走っていた。
好きとか愛してるとかを言葉にするよりかよっぽど恥ずかしくなかった。
夏目漱石がこう訳せといった根拠のない話があったらしく、一時現代の脚本家達によく使われていた知る人ぞ知る和訳である・・・。
どうやら
これでこの言葉の意味が I Love You と伝える事でこの話は終わりになる。
だが・・・。
「死んでもいいわ・・・。」
この小娘知ってやがった・・・。
「うれしい、おじさん!」
「やっと私と一緒になってくれる決心がついたのね!」
話しと違う!?
「いや・・・今のは告白ではなく、
「えーっ、本気じゃないの?」
「
今回は
だが、表情がニヤついていた・・・。
「ずっと前から月は綺麗!」
「このまま時が止まれば良いのに!」
明らかに
「あなたと見る月だから!」
もうやめてくれ・・・。
「傾く前に出会えてよかった!」
恥ずかしいからやめてくれ!
言葉の意味を知る
「手が届かないからこそ綺麗なんです!」
「それは断る時の言葉だ!」
「あれっ?・・・そーだっけ!?・・・。」
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