第51話 花嫁〈はなよめ〉
会社には婚約者が病気になったと伝えていた。
完全な方便だが、
理解のある上司というのは本当にありがたい。
この計らいのおかげで
見る見るやせ細っている・・・。
転移が様々な箇所で見られ何度も手術にて体に傷を作っていた。
手術跡が出来る度に
女である
それだけを願っていた・・・。
病院関係者には
あまりにも
そして病院関係者からは憐みの声が出ていた様である。
毎日やっている事だ、もうすっかり慣れてしまっている。
だが今日に限っては少し状況が違っていた。
その時、看護師に呼び止められていたのである。
何か話があるらしい・・・。
嫌な予感がしたが
案内された場所は診察室だった。
看護師にここで少し待ってほしいと言われた。
しばらくすると、医師らしい人物が診察室に入室してきた。
「初めまして、私が
担当医の
「うちの病院の方針では患者の病状は本人の了承を得ない限り肉親以外には伝えない方針となっています。」
「ただあなたは
「そしてあなたは毎日の様に下野さんに面会をしている。」
「余程の仲だと判断しました。」
「今から話す事は下野さんに了承を得ておらず、むしろ拒否されました。」
「それでもあえて規約を破ってでも、私はあなたに伝えようと思ったのです。」
こんな事を言われたのである、ある程度の察しはつく・・・。
「はっきり申しましょう・・・。」
「
「医師としてこの様な事を告げるのは非常に残念ですが、覚悟をして頂きたい。」
日に日に瘦せ衰えて行く
だが希望だけは捨てていなかった。
今回、医師からはっきりと言われてしまい絶望に苛まれていた・・・。
「彼女は・・・いつまで生きられるのでしょうか?・・・。」
「今日かもしれませんし、一か月後かもしれません・・・。」
今日にも
長くても1か月!?
その時間の短さに
正直、日々窶やつれて行く
ただ、気付かないフリをしていた。
診察室を飛び出し、
一秒でも
腕には点滴が付けられ食事もまともにとれない状況になっていた。
「花桜梨・・・。」
いつもと様子の違う
「・・・知ってしまったようですね・・・もう先生ったらひどいな・・・。」
「
病状が悪化している
病魔によって痩せ細った体は軽く、折れてしまいそうだった。
「やっぱり
「花桜梨・・・すぐに結婚しよう・・・なるべく早くだ・・・。」
もう自分は居なくなる・・・。
なのになぜ
「もう知ってるんでしょ?」
「私はもう居なくなるの、私になんかに縛られてはダメ・・・。」
「もう立ち上がることも出来ないんだよ・・・。」
「車椅子で式をすればいい・・・。」
「もうこんなに痩せちゃってるし、髪の毛だってもう無いし、ドレスなんて似合わないよ・・・。」
「髪の毛はウィッグを付ければいいし、ドレスだってきっと似合うはずさ・・・。」
「私と結婚なんてしたら、私はもう居なくなるのに
「俺の娘として大切に育てるよ・・・。」
「私は
「これ以上あなたの負担にはなりたくないの・・・。」
「俺は君の為になるなら負担なんて感じていない・・・。」
どうして
「どうしてあなたは私にそんなに優しいの?」
「君を愛しているから・・・生涯愛し続けると誓ったから・・・。」
そして
今まで強く触れ合わなかった事を後悔しない様、長い長い口づけだった・・・。
これは
「明日にでも結婚式をしよう、なに結婚指輪は既にある。」
「予約もしてないけど必ず探すさ・・・絶対に式を挙げよう・・・
「これから幸せになる花嫁には涙は似合わないよ・・・。」
まるで、
「でもこれは、嬉し涙だから・・・。」
最後の最後まで誰かに必要とされている。
今までこんな笑顔の
瘦せ細った
翌日、
その表情には笑みが浮かんでいた。
まるで幸せの絶頂期の様な表情だった・・・。
あまりにも綺麗すぎる死に顔だった。
まるで苦しい闘病生活が無かった様な・・・。
愛する人に寄り添われながら逝けたかの様な・・・。
あまりに若すぎ、あまりにも早すぎる死であった・・・。
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