第29話 再会〈さいかい〉
自分には全く縁のない会社のトップクラスの人間。
何故そんな人間に呼びつけられるのか?
何か目を付けられたのだろうか?
だがそれはおかしい。
目を付けられて呼びつけられる訳がない。
そして組織化も出来ている。
仮に目を付けられたとしたら、
役員専用のフロアに来た。
入り口には三台のセキュリティゲートがある。
透明なアクリル板でできたカードタッチ式の駅の自動改札の様なあれである。
当然
ゲートの横には受付がある。
役員専用の受付である。
受付の女性は電話をしている。
丁寧な言葉遣いである。
相手は
「
「こちらをご利用してお通りください。」
「
「部屋の前にネームプレートがございますのでご確認ください。」
政幸はゲートの読み取り装置にQRコードをかざしてゲートから中へ入っていった。
昼時間を過ぎたころである。
「吉田さん何の御用ですか?」
この会社では上長の事はさん付けで呼ぶ慣習である。
会社によっては役職名で呼ぶ企業もあるだろうが
「矢野君今日の業務は順調かね?」
珍しい事もある。
こんな事は今まで聞かれた事もない。
「問題ありません。定時帰りになりそうです。」
「ならば今日の仕事の目途がたったら、
沢渡?
「申し訳ないのですが、私は
吉田は深いため息をついていた。
「君は、自分の会社の役員の名前も知らないのかね!?」
そんな雲の上の存在知るはずもない。
「とにかくだ、仕事の目途がついたら、話はもう付いているから役員ブースの受付にこの事を話して
全く持って不可解であった。
この
会社のごくつぶしの
様々な憶測による悪意ある噂であった。
(
呼び鈴らしきものがあったので取り合えず押してみた。
「どうぞ。」
女性の声でインターフォンから回答があった。
部屋の鍵のロックが外れる音がした。
部屋の正面にあるデスクには一人の女性が居た。
ショートヘアの女性で政幸と同年代か下であろうか?
「おつかれさまです。
「おつかれさま
「まあ座ってください。」
来客用のスペースである。
「
話しが長くなるのか
「はい。」
沢渡は内線電話でコーヒーを2つ用意する様に指示していた。
女性がコーヒーを2つ持ってきた。
女性が退出すると
「さて、何から話すべきかしら・・・。」
そんなに話す事があるのか?
こんな何の変哲もない一般社員に・・・。
「矢野君、貴方の事は調べさせてもらいました。」
どうせロクな噂はたっていない。
「あなたは故郷の営業所で入社、そこでの評価は高かったみたいね。」
「入社して2年で主任に選抜、うん・・・優秀ね。」
今は誰もそう思ってはいないが、若かりし頃実力で勝ち取った役職であった。
「でもその後は鳴かず飛ばず。」
「あなたの実力を知っていた当時の営業所長の計らいでその後本社勤務となる。」
「本社で奮起するかと期待されていたのね。」
「しかし結果は出せず今に至る。」
「社内での評判はごく潰し会社の荷物などと最悪。」
「なにか反論は?」
「いえ、おっしゃる通りです・・・。」
「まあもっとも最近は女性社員の評判は徐々に回復している様ね・・・。」
「私は役員だけど外部から来た人間なの。」
「同じ人間が運営してては新たな改変には気付き辛いものだからね。」
「その為に私はここに呼ばれたの。」
「その意味解るかしら?」
外部から来た人間という事は社員に対する情もほぼないと思われるそれには最適な人材である。
自分はその対象なのだろうか?
でも役員自らがそんな事を宣告するだろうか?
「私は人材である社員は、人と財産の財を組み合わせた人財だと思っているわ。」
「どんな人間にも適材適所があると思うの、それを生かせていないとしたら会社の責任であり上長の怠慢だと私は考えているわ。」
「だからトカゲの尻尾切みたいに簡単にリストラなんてさせたくはない。」
「安易にその対象なりえない人間はリストラと叫ぶけど会社を辞めさせるってことはその人の人生を大きく狂わせることになるの。」
「不景気が長く続き嫌々ながら会社に所属する、自分の能力を生かし切れていない、そんな会社に希望を持てない社員があまりに多いの・・・。」
「あなたは会社における希望って何だと思う?」
「やりがいですかね?」
絵にかいたような模範回答である。
本位でないのが見透かされたのか?
「ならそのやりがいを出すには?」
この人は建前はどうやら通じなさそうだ・・・。
「
この人に建前を発言しても見透かされると
「会社におけるやりがいとは様々あると思います。仕事の達成感、同僚や上長、後輩などとの人間形成、まあこれも確かにあるでしょう。」
「だが結局のところ人は報酬だと思います。」
「今の若い人達は私達が若い頃に興味のあった車などに興味がないと聞きます。」
「それは興味を持たないのでなく興味を持てないのです。」
「結局給料が安く購入出来ないから興味を持たない、お金があれば興味を持つと思います。」
「企業がお金を渡さない、でも薄給である社員は企業にとっての消費者であるのです。」
「消費者がお金を持ってないから企業の商品が売れないそんな負のスパイラルとなっています。」
「それは正論ね。」
「しかし企業には生き残る責務もあるのよ?」
何一つ間違っていない発言である。
会社の経営が立ち行かなくなれば多くの人間が路頭に迷うことになる。
「あなた報酬が高いとやる気になるといったわよね?」
「あなたに今の現状で報酬を高くする方法って思いつく?」
本音で語ると宣言していた為とりあえず発言してみた。
「なら給料を査定にすればよいのでは?」
「例をあげると社員が10人居てそれぞれが10万の給料で合計100万です。」
「その100万の枠はそのままで査定に応じて給料を上下させる、がんばれば給料が多くなる、しかし給料が上がった分給料の下がる社員もいる、そう合計である100万の枠は固定させその中で変動させれば会社の人件費は固定のままです。」
「考えはともかく、給料を安定させないのには賛成できないわね。」
「多くの企業に勤める社員は安定を求めているのだから。」
「就職というのは安定を手に入れる為に行うものなのよ。」
「まあ給料というのはやりすぎかもしれないけどボーナスにのみ適用させるのはありかもしれないわね。」
「ただし、大変面白い案だと思うけど二つ問題があるわ。」
「一つはその10人が査定をクリア出来なかった場合、たとえば100万枠が90万になるのは有りだけど、その逆になった場合はどうなのかしら?」
「そうね10人が10人大幅に査定クリアしたって時ね?」
確かに一理ある、だがこの場合は問題ではないだろう。
「10人が10人査定クリアなら業績も上がっているはずです。」
「さほど問題にならないと考えます。」
「ではもう一つ・・・査定なんだけど営業職ならともかく、数字として評価の出しにくい部署もあるわよね?」
「そういった部署への配慮はないのかしら?」
不明確な回答でも会話のキャッチボールをしている内に明確な回答に変化している気がしていた。
新たなアイデアが次々生み出され、それの不備を修正していく。
何と生産性のある会話なのであろう。
具体的な指摘を発言せずただ数字が悪いから努力しろなどという曖昧な口上を行う上司共にこの人の爪の垢でも飲ませてやりたい。
以前
そう、
今はそれがない、だからやる気になれていない。
言い訳の様だがこれは事実でもあった。
「目標設定を行うのはどうでしょう?」
「半期とか四半期ごとに自分の目標を設定して上長に提出、上長に承認してもらいその目標を目指す。」
「そして次の期に自己評価を行い上長の評価と照らし合わせて評価とする。」
「たとえば具体的な目標って何があると思う?」
「何でもいいんです。」
「例えば社内に落ちているごみを1日1個拾うとか?」
「あはは、あなた傑作だわ!」
「正直、査定とか目標設定なんて発想は私にもあったわ、だけど『落ちているごみを1日1個拾う』はなかったわ!」
「さすが、私の初めての生徒ね・・・。」
昔聞いたことのある忘れようのない台詞に類似していた。
その言葉を聞いた
「貴女は・・・もしかして・・・もしかして・・・。」
「やっと気づいてくれた様ね・・・私の
「お久しぶりね、
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