第27話 落命〈らくめい〉
桜はとうに散り、草木達は新緑の季節を迎える為成長を行っていた。
向かっている方向は
大型連休で帰郷している訳という事ではない。
大学を辞め帰郷している訳でもない。
1Kでバストイレ付の一般的なワンルームである。
親元を初めて別れた
少々小腹が空いていたのだが、外食するのも勿体ないし、かといって自炊は出来ない。
多少不健康ではなるがインスタントカップ麺を取り出し電気ポットのお湯が沸くのをまっていた。
出来たカップ麺を啜って完食したところ、少し物足りないなと感じつつ午前に受けた講義の整理を行う為机に座っていた。
その時
電話に出てみると相手は
「あんた、午前にも何度か電話かけてたんよ?」
「学校行ってると思ったからまたかけなおしたのよ。」
「あんたに伝えないといけない事があったからね。」
電話をかけるならそのタイミングにかける方が確実に連絡を取れる。
朝と現時刻である昼にかけてくるなんてよっぽどの用事があるのではないのか?
「あんたの友達の
一瞬母が何の冗談を言っているのか解らなかった。
冗談にしては悪質である・・・。
「母さん・・・それって本当?」
「昨日の晩通夜をやって、
(何でなんだ・・・やっと母を助けられるって言ってた
(
(高校生で親を亡くすってこれから一体どうやって生きて行くのだろうか?・・・)
「母さん!お願いがあります!」
「今から
「
「頼むよ!」
「全くこの子は・・・。」
「母さんの想像通りの事を言うのね・・・。」
「今から帰ってきても葬式には間に合わないから、一度家に寄りなさい。」
「それが条件・・・。」
「あんたどうせ正装も葬式のマナーも知らないでしょ?」
「まあ
「
予定よりずいぶん早い里帰りに・・・。
ダブルタイプの正装は何とも堅苦しく動き辛い。
一度しか会った事はなかったが愛想が良く好感の持てる人物だった。
母の話によるとほぼ過労死だという話だ。
死ぬまで働く・・・今の
それだけ
今の
口先だけでは『出来る』と言えるだろう。
だが死ぬほど働いている時、もう死ぬかもしれないと思っている時その様な行動が取れるだろうか?
『生涯貴女を愛し続けます』と誓った
本当に敵わない・・・。
だがそれが原因で母が亡くなる事となった残された
早く
とても不安で心配だ・・・。
逸る気持ちに対して目一杯ブレーキをかけていた。
家から
「これを
「中には十万円入っています。」
普通不幸時にはあまり多くの金額を渡すのは失礼だと聞く。
「渡す時こう言いなさい『
「『だからこれは故人が亡くなった事を祝っている訳ではない』と」
「『後、
そんな家訓も聞いたことないし家は無宗教である。
母なりの
何度か呼び鈴を押したが反応がない・・・。
「
中から物音が聞こえドアが開いた。
夜通し泣いていたのであろう。
自分の目の前で泣き出してしまった
だが
「
それは無理な話である。
「・・・いや、泣いてもいい!」
「でもずっと悲しみ続けないで!」
「今日はたくさん泣いて、泣いて、泣きまくって涙を枯らしちゃおう!」
「でも明日とは言わない!」
「近い内に必ず笑顔を見せてほしい!」
「
「俺なら好きな人には笑顔でいてほしい、
「悲しい時はいつでも俺が胸を貸すから!」
抱きしめているとはいっても体の接触はそれ程多くはない。
ペアで行うストレッチの方がよほど接触箇所が多いだろう。
冷静さを取り戻し少し慌てたが、離れたくなかった。
今まで経験した事のない感触だった。
絶対に壊したくない・・・。
しばらく
「
「変な所見せてしまって・・・。」
「中に兄が居ます。」
「上がってください。」
だが離さない訳にはいかない。
部屋の中には
まるで生気が感じられない程落ち込んでいる様だ。
部屋の中央に置かれた折り畳み式の座卓の上に母の遺骨が置かれていた。
まるで生気が感じられない
「
「ありがとう、母ちゃんもきっと喜んでくれていると思う・・・。」
「
本心から本当にそういう思いだった。
「いいさ、
「昼間さ会った事もない親戚らしい人間が昼に来たよ・・・。」
「家に財産ないの解ったらいつの間にか居なくなっていた。」
「そいつらは母ちゃんが死んだ事を何も思っていなかったんだ。・・・」
「その点、
「血のつながった親戚よりお前が来てくれた方が母ちゃんも嬉しいと思うよ・・・。」
本当に
「しっかりしてくれよ!
「今は無理だって俺も思うし今言う時ではないのも解ってる!」
「
「そんな奴は親戚なんかじゃない!」
「なら
「それにさ、今は
「今こんな事言うなんてお前からすれば何をバカな事を言っているんだと思われるかもしれない。」
「しかし俺はそんな立場に居る
「変わってもらいたい位だ!」
「だが今の俺ではダメだ!」
「だから頼む!
「わかってるさ
「
「なんならその後も見るさ・・・
「俺、社会人なんだぜ?」
「お前と違って働いて社会に貢献してるんだぜ?」
「給料はまだまだ安いが、まあ何とかなるだろ・・・二人で頑張ってみるよ・・・。」
目標が無くなった
きっと妹である
二人の会話を聞いていた
元々小柄だった
時は同じく平成初期のバブル景気。
日本中を沸かせた大景気であったが、気付く者は少なかったがその景気にも不穏な影が見え始めた。
西側と東側の冷戦という対立も徐々に西側優勢に傾きつつある世界情勢。
激動と言われた昭和から移行した時代であったのだが目に見える戦いこそ無けれどもその戦いの形態が大きく変わっていた。
その平成はどんな時代なのだろうか? 希望? 絶望?
誰もが生活に大きな変化をもたらす前兆を含んだ時代の話。
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