第24話 奮励〈ふんれい〉(3)

 政幸まさゆきは高校2年生となっていた。

 美春みはるのおかげで成績はうなぎ登りに上昇しレベルの低い高校とはいえ、学年トップの成績も何度か経験していた。


 本当に美春みはるには感謝している。

 昔はあまり好きではなかった上級生せんぱいであったが、今好きな上級生せんぱいは誰かと問われたら、迷いなく『美春みはる』の名前を出す事だろう。

 美春みはる政幸まさゆきにとってそのくらい大切で尊敬する先輩となっていた。




 季節は春。

 政幸まさゆきは4月になれば最上級生である3年生になる。

 就職か受験の選択をすることとなる。


 だがその前に政幸まさゆきには政幸まさゆきにとって辛い別れが待っていた。


 政幸まさゆきの一学年上の上級生せんぱいである椿つばき美春みはるとの別れである。


 要領の良かった美春みはるは日本で一番賢いと言われる大学に殆ど勉強する事はなく入学する事が決定していた。

 つまり故郷を離れ首都に行く。




 政幸まさゆき美春みはるはいつもの図書館に居た。

 今日は最後の勉強会であった。

 現時点で習っている学校の教科はとっくに理解している為参考書などで今は勉強している。

 政幸まさゆきのレベルは以前からは考えられない程向上していた。

 全て美春美春のおかげである。


 政幸まさゆきは最後の勉強会を真剣に受けていた。

 美春みはるもいつも通り真剣に、理解しやすく教えてくれていた。

 この時間が終わるのを惜しむかのように・・・。





 政幸まさゆき達は最後の勉強会を終え、帰宅の途についていた。

 いつも通り二人で自転車を押し徒歩で・・・。


 しかしいつもの冗談交じりの会話はない。

 最後だから美春みはるに感謝の言葉を伝えたい。

 でも何を話していいか解らなかった。

 だがそんな政幸まさゆきの心中を察してか美春みはるの方から政幸まさゆきに話しかけていた。


矢野やのちゃん、今日で最後だね。」

「明日から寂しくなるなーっ。」


 政幸まさやきもその言葉には同意だった。


「本当に楽しい時間だった・・・。」

矢野やのちゃん、ありがとね!」


 その言葉を口にしなければならないのは政幸まさゆきの方である。


「そんな・・・礼を言わないと行けないのは俺の方ですよ・・・。」


 美春みはる政幸まさゆきとの勉強会を『本当に楽しい時間だった』と言ってくれている。

 政幸まさゆきにとってもそれは同意見であった。


「俺、美春みはる先輩との図書館での勉強会、毎日楽しみにしていたんです。」

美春みはる先輩は毎日来る訳ではないけど、美春みはる先輩が図書館に居た日はすごく嬉しかったんです。」

「明日からこれがなくなると思うとすごく寂しいです・・・。」


 いつもならこんな言葉を発言したらからかってくる美春みはるであろう。

 だが今日の美春みはるはそんな素振りを見せなかった。


「嬉しい事いってくれるね~っ、その言葉だけでもお姉さん救われた気持ちになっちゃったよ。」


 美春みはるは微笑んでいた。


「あたしさー中学の時、矢野やのちゃんいたじゃん。」

「高校生になってさ矢野やのちゃんと別れて、色々考えていたら事結構後悔していたんだよね・・・。」

「そんな時あの図書館で矢野やのちゃんに偶然出会ってさ、今が贖罪の時だと思ったんだ。」


 そんな事くらいで2年近くも政幸まさゆきへ勉強を教えてくれていたのか。

 相当罪の意識を感じていたのだろうか?。


「まあ、最初は基礎だけ教えれば後は何とかなるし、基礎教えるくらいまでで良いかなって思ってたんだけど、矢野やのちゃんに勉強教えるのが楽しくなっちゃって、その後も付き合っちゃったって訳なんだよね。」


矢野やのちゃんいたのもね、あたし矢野やのちゃんの事結構だったからなんだよね。」

「男の子が好きな女の子に意識してもらいたくてちゃうって感覚と同じなのかな?」


 美春みはるの『好き』は『愛してる』の意味では無い事は重々承知している。


「だからごめんね。お姉さん大人気なくて・・・。」


 政幸まさゆき言葉を聞いた時、思わず感情が爆発してしまった。


「何言ってるんですか!?」

「謝る必要なんてない!」

美春みはる先輩は、俺にどれだけの物をくれたか!」

「俺は美春みはる先輩の事を世界一尊敬しています!」

「だから謝ってほしくない!」

「先輩には感謝しかない!」


 美春みはるは笑顔でこの言葉を聞いてくれていた。

 政幸まさゆき美春みはるの笑顔を見て少し落ち着いた。


「先輩、本当にありがとうございました!」


 美春みはるは満面の笑みを浮かべていた。

 すごく美しい笑顔だ。

 キザな台詞セリフであろうが、本心から政幸まさゆきはそう思った。


矢野やのちゃん、あたし教師になりたいって言ってたよね。」

「でも色々な経験をしてない教師はだとも言ったよね。」

「だから私は教師以外の資格も取る。」

「就職もするよ。」

「そして色々な経験をする。」

「でも最後には理想の教師になる。」

「それが私の『夢』だから・・・。」

「だから矢野やのちゃんも応援してよ!」


 美春みはるは笑顔ではあったがその瞳は真剣そのものだった。。

 そして政幸まさゆきにとって忘れられない言葉を告げた。


「君はあたしのの生徒なんだからね・・・。」




 美春みはるの理想はとても高いものである。

 実現は難しいであろう。

 だが政幸まさゆき美春みはるならやれそうな気がしていた。

 そして実現してほしい。

 美春みはるの高い高い『夢』を・・・。





 時は長く続いた昭和が終わり新しい年号となった平成。

 昭和の象徴である実質元首の死を悼み日本中が悲しみに包まれた。

 日本経済は最高潮に達して世界中の富が日本に集中する勢いだった年の出来事。

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