第22話 帰京〈ききょう〉
顔良し、スタイル良し、愛想良しと異性から意識される要素しか見受けられない女性。
恵まれた容姿をもっているがそれを鼻にかけることはなかった為、同性からも悪く思われていない。
性格も明るく笑顔を絶やさない。
受付業務をしているのだが、来客の印象も大変良いようである。
稼業中はそうでもない様だがイエス・ノーをはっきり言う性格である。
異性から意識される頻度も多いようであるが、その性格が幸いしてか災いしてか、彼女の後ろには男達の墓標が数多く存在して居た。
そんな
彼女の祖母は親戚関係を絶っていた。
その為、親戚付き合いがないのである。
彼女の
そして離婚歴がある。
父は今でも居るのだろうが会った事はないようである。
母の死後、
その後は
一部例外もあろうが夫婦というのは他人同士の異性がパートナーとなって成立するものである。
つまり
事情を知らない他人がこの境遇を聞くと大抵の者は
事情を知っている人間からするとそれは単なる偽善に過ぎないと馬鹿馬鹿しくなる。
人の境遇が幸福か不幸かなんて当事者の自覚次第である。
決して他人の秤によって決めつけてはならないものである。
なら、当の
それをきっと不幸だとは思っていないはずである。
そんな
ただ本心は解らない。
心の中の闇といった部分は本人以外にはなかなか理解できないものである。
その姿は他人から見たら親子の様であった。
娘に見られているであろう
だが父と見られているであろう
また、この
また強引に何かを約束させられる予感がしていた為出たくはなかったが、後ですねられると面倒なので一応出てみた。
電話の相手は
「センパイいつ
今年の盆は五連休なのだが、帰省ラッシュの中帰るのも疲れるだけだといった理由もある。
「明日の始発の新幹線で戻るよ。」
「帰省ラッシュあまり好きではないからね。」
「そうだったのですか・・・。」
「実はセンパイに渡すものがあったのですけど・・・。」
「今日はもう遅いですし、申し訳ないのですけど明日の朝帰る前にウチに寄ってくれませんか?」
「寄るのは構わないけど、相当朝早く出るつもりだけど大丈夫?」
「始発って言ってましたもんね、4時過ぎくらいに起きればいいですよね?」
「タイミング見計らって寄ってやってください。」
その時間なら
「わかったよ、家出てから駅に行く前に寄るね、でも悪いね気を使わせてしまって。」
「いえ構いません、それでは明朝に。」
時間は4時半。
普通この時間に尋ねたら常識はずれであり激怒されても仕方がない。
気が引ける思いだったが呼び鈴を押した。
しばらくすると玄関の明かりがついた。
ドアが開いてそこにいたのは、
手にはキャリーケースを引いて・・・。
「あの
茉莉は不思議そうな顔をしてその問いに答えた。
「まだこんな時間だよ、まだ寝てるよ?」
「
「やだなおじさん、おじさんと一緒に帰るからに決まってるでしょ?」
完全にハメられていた・・・。
するとタクシーが家の前へに来て止まった。
「さあ、おじさん荷物いれて乗った、乗った!」
実に用意周到である・・・。
「おじさんさ、
「すっかり騙されちゃったよ・・・。」
「騙してないよ?」
「渡したいものって私の事だけど?」
言葉の方便だと思ってはいたが朝からの出来事でもう気力すらない。
「伯母さんもわたしの事『渡したい』ってわたしは『おじさんのもの』って事になるよね?」
「それってもう親公認の仲って事じゃない!?」
もういい好きにしてくれ・・・。
トイレにでも行きたいのだろうか?
ならば勝手に行けばいいと思っていた。
「おじさん・・・。」
「お腹空いてない?」
空いてない訳がない。
朝食を駅で済ませようと思っていたのだがそのタイミングを失ってしまっていた。
朝食をとって居るはずはない。
「恥ずかしいのだけど、昨日お弁当作っておいたの・・・。」
「食べてくれるかな?・・・」
「あんまり上手ではないのだけど、一生懸命作ったので食べてほしいな・・・。」
むしろ愛情もある。
会社では底辺だが、そんな
弁当の蓋を開けると
正直食欲をそそられるといった要素はあまりない。
色合いが地味である。
味は普通である。
特質するものは何もない。
だが褒めない訳には行かない。
「
少し失礼な言い方かと思ったが適切な表現ではあった。
とても嬉しそうだ。
「わたしの
「わたしも
『わたしは『
そしてその
もしあの時の人物が
漠然とした目標。
「でもきっとおじさんにわたしの弁当また食べたいって言ってもらえるようになるからね・・・。」
「わたしなりに頑張ってね・・・。」
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