第8話 呼称〈こしょう〉
冴えない中年社員と
上着を羽織ることなくシャツ姿の中年男性の腕に付けられていた黒いアームカバーがその店の雰囲気を壊してしまっていた。
同席している
中年男性は
その為メニューなどみてもさっぱり理解できなかった為、もっぱら注文は
「おじさん、最近いつもここの店に来ているけど次は違う店に行く?」
そういってまた、中年社員を食事に誘おうとする
中年社員は落ち着いた声で、諭すように
「
「うちの会社従業員も多いし誰が聞いているかわからないからね。」
その言葉を聞いた
「おじさんは、会社ではわたしに『おじさん』って呼ばれてほしくないんだ・・・。」
少し気落ちをしたかのように言葉を発する
「でもそうだよね。おじさんが嫌ならわたしもそれに応えなくちゃいけないよね。」
「じゃあ『主任』って呼ぼうかな? でも会社の人でおじさんの事『主任』って呼んでいる人居ないし誰だか解んないよね・・・。」
「うん! 今度からは、おじさんの名前に『さん』付けをして呼ぶことにします。」
会社の嫌われ者である中年社員はその事を自覚していた。
別に今更嫌われている事を改善しようとも思っては居なかったのだが、中年社員の事を嫌う姿を見せない
少しずつ中年社員との関りを無くし、他の社員達と交流を深めてやるべきだと考えていた。
そう考えている時、
「ねぇ、おじさん今からおじさんの事『さん』付けで呼んでいい?」
少し頬を赤らめ上目づかいに視線を向けてくる
いままで『おじさん』と呼んでいたのに急に名前で呼ぶことになるのは気恥ずかしいのであろう。
「もちろんいいとも。」
「うん、じゃあ言うね・・・。」
茉莉は一呼吸置き、更に頬を赤らめ、上目遣いのまま語りかけた。
「
『
すっかり名字である『
中年社員
「もう、やだ! これではまるで新婚ね!」
「もうこのまま結婚しちゃうしかないわね!」
言葉をすっかり失っていた中年社員
どうやったらその発想になるのか意味が解らない。
だがこのままではズルズルと
「あの
「なあに、
上機嫌で愛想よく受け答えをする
当然の様に中年社員
「あの、
「拒否権を行使します!」
間髪入れず拒否する
何の権利があって拒否権を発動させているのか意味が解らない。
中年社員
「
「そんな事会社でいえるか!」
冷静なフリをしていた中年社員
「えーっ、昔は呼び捨てでは無いけど『
口を尖らせて不満を述べる
どうやらこの二人は昔なじみの様だった。
「昔は昔、今は今なのっ!」
「
きょとんとした表情をみせる
だがその表情はすぐに変化があった。
「今おじさん、わたしの事『
「嬉しい・・・。」
だが肝心の
中年社員
中年社員
暫くの間その状況を楽しんでいるかの様な
十分に満足したのか普段通りの愛想よく楽しそうな表情へと戻っていた。
「わかりました、おじさん。」
「でも、わたしにばかり一方的に意見するってのはフェアではないと思うなーっ。」
「だから妥協点を提案します!」
何が
嫌な予感がしている・・・。
「今からおじさんに対する呼称を2つ提案します。」
「その内の1つをおじさんに選択してもらいます。」
「1つは今まで通り『おじさん』。」
中年社員
「2つ目は?」
恐らく考えていなかったのであろう。
だが中年社員
少し上向きに頭を上げ、右手の人差し指のみを立て、その人差し指を顎に置いていた。
嫌な予感と不安がさらに高まる・・・。
「んーっと・・・。」
「
ニヤけた顔つきをしている
嫌な予感は的中した。
その姿を見て中年社員
「拒否権を行使します!」
「今まで通り『おじさん』でいいわ・・・。」
中年社員
親子程も歳の離れた
時は平成の世。
バブル経済はとっくに弾け不況の時代。
負けると思われていた
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