第4話 往日〈おうじつ〉(4)

 下野しもの 真司しんじ

 政幸まさゆきの友人。

 政幸まさゆきとは中学入学時に知り合った。

 政幸まさゆきが合い、3年間同クラスであった事もあり親友といっても良い間柄であった。


 眉目秀麗、学力普通、容姿に特化した普通の中学生。

 その精悍な容姿のおかげか異性受けも良く、また異性慣れもしていた。

 しかし同性からは醜い男の嫉妬からか政幸まさゆき以外の友人は皆無と言っていいほど付き合いがなかった。

 当の、真司しんじはその事を気にも留めておらず、恵まれた体形のおかげで真司しんじに対して危害を加えるような生徒もいなかった。


 親友といって良い間柄といっても政幸まさゆき真司しんじの家庭状況をよく知らなかった。

 真司しんじは母子家庭で兄弟が一人居て三人家族、決して恵まれている家庭環境ではない事は知っている。

 真司しんじは良く政幸まさゆきの家に行っては居たが、その逆はない。

 住んでいるアパートがらしく友人を家に招待したがらなかった。

 政幸まさゆき真司しんじに対して深入りはしない性格であった為か、二人の関係は良好だった。

 人の意見を聞かない点、我が強い面もあったが真司しんじとの関係はきわめて良好といえる関係だった。





 蛍子けいこの襲撃から時は経ち、放課後となっていた。

 帰宅の途につく生徒たち。


政幸まさゆき。」


 真司しんじに声をかけられる。

 普段は帰宅前に政幸まさゆき真司しんじは軽く会話を交わし教室で別れ個々に帰宅を行っていた。

 しかし今日に限っては少し真司しんじの様子が違った。


「今から、おれの家に来ないか?」


 決して家に招待したがらなかった真司しんじから予想外の言葉が発せられた。


 何か深い理由があるのか、来年には分かれる進路の事もあり今の内に交流を取りたかったのか、それとも昨日の件の相談に乗ってくれようとしているのか、何れにせよ真司しんじの家に行く必要はない。

 親友ともいえる真司しんじの家を政幸まさゆきは知らない。家に招待したがらなかった真司しんじへの興味もあったが、特に断る理由もない。


「解った。」


 政幸まさゆきは頷き真司しんじと共に帰宅をする事となった。

 真司しんじの家は政幸まさゆきとは全くの逆方向、真司しんじとは小学校は別学区だった為それも理解できる、無論一度も真司しんじの家を訪ねた事はない。


 校内では政幸まさゆきに対して、今だ好奇の目が向けられている。

 無理もない、あのとも言える出来事はつい昨日の事だった。

 蛍子けいこと話した昼休憩、花桜梨かおりの現状を聊か知ることができわずかながらの安心感を得てはいたのだが、政幸まさゆきに対する赤の他人といっていい生徒たちの反応を見ているとわずかながらの安心感は消し飛んでいった。

 政幸まさゆき達は心無い生徒たちを無視し無言で真司しんじの家に向かって行った。




 真司しんじの家に向かっているとやがて政幸まさゆきに対して向けられていた好奇の目がすっかり無くなった頃、真司しんじは言葉を発した。


「あのさ、政幸まさゆき。」


「何だよ真司しんじ。」


「あの例のの事なんだけど、おめぇどれだけ本気なんだ?」


 真剣な表情で真司しんじ政幸まさゆきに問いただす。


「本気も本気、大本気だね。」

「彼女を一目見た時、何か感情が高ぶり気持ちが押さえられなくなり気付いたら行動していた。」

「家に帰っても彼女の事が心配で心配で、学校でもそればかり、今だってそうさ!」


「それは彼女に対して、をした罪悪感からの感情って事ではないんだな?」


「そんなことはない! 罪悪感は間違いなくあるが、彼女を想う気持ちに間違いはない!」


「そうか、わかった。」


 政幸まさゆき花桜梨かおりに対する気持ちを確認した真司しんじは暫く政幸まさゆきの表情を見ていたが、ため息をつき少し目を逸らし言葉を発した。


「彼女の事調べたよ。」


 そういえば昼休憩そんな事を言っていたのを政幸まさゆきは思い出した。


 真司は言葉を続けた。


「もっとも調べるまでもなかったが・・・。」


「彼女は1年2組の下野しもの花桜梨かおり、つまり俺の妹だ・・・。」


 真司しんじから発せられた言葉に政幸まさゆきは動揺していた。

 当然である。

 情熱的にも公開告白をして好奇の目を向けさせてしまい傷つけてしまった花桜梨かおりの兄がよりによって無二の親友だったという事実。


 動揺する政幸まさゆきに対して真司しんじが悪い表情を浮かべ言葉を発した。


「まあ、おめぇの事は俺が一番わかっているしな。おめぇが良い奴って事も解っているし、花桜梨かおりに対して真剣なのも手に取るようにわかる。なによりおめぇは俺とが合う。」

花桜梨かおりは俺の可愛い妹だ。どうせいずれか男と付き合うなら、どこの馬の骨とも知らない奴と付き合うより、良く知っているおめぇと付き合ってくれる方が俺も安心だしな。」


 真司しんじは俺の事を認めてくれているそれは普段から感じてはいる事ではあったが言葉として示してくれたのは初めての事であった。

 花桜梨かおりの兄として花桜梨かおりと付き合うならまだ政幸まさゆきの方が幾分相応しいと言ってくれてもいる。

 真司しんじとの友情に感謝しつつ政幸まさゆき真司しんじに対して素直に伝えた。


「ありがとう真司しんじ!」

「おまえの妹を傷つけた俺に対してそう言ってくれて!」

真剣マジでおまえと知り合えて俺は良かったと思っている。」


 政幸まさゆきは目を赤く腫らしうっすらと涙を浮かべていた。


「よせよせ、辛気臭い!」

「泣き虫が悪いとは言わないが、妹を任せるなら逞しい男の方がいいぞ!」


 が悪い表情もすっかり消えいつもの真司しんじ節で政幸まさゆきに話しかける真司しんじ

 政幸まさゆきの肩を二回ほど叩き励ましてくれている様だった。

 真司しんじは会話を続ける。


「しかしなぁ、政幸まさゆきよ・・・。」

「今の状況は良いとは言えねぇぞ?」


「ああ、解っている。」


「おめぇと花桜梨かおりが付き合うのは別に俺はかまわねぇ、しかしなさっきも言ったが花桜梨かおりは俺にとってはかわいい妹だ、おめぇと付き合えなんて強制は俺には出来ねぇ。」

「まずは仲直り・・・。ってか知り合っていないも同然だから、昨日の事謝ってお互いの事を知っていく事から始めないとな。」

「まあ協力はしてやるよ!」


 根拠のない自信が真司しんじより感じられた。

 何かをやらかしそうな悪い予感。


「そ・こ・でだ。」

「おめぇを今日家に招待しようとしてるって事よ。」

「母ちゃんがまだいるが、花桜梨かおりが晩飯作ってそれ食ったら仕事に出かける、その後おめぇに謝る機会を与えようって作戦よ!」


 でた、真司しんじの暴走。

 真司しんじは良い奴だが、勝手に物事を決めてしまうという悪い癖がある。

 ある意味頼りがいがあるといえるが、政幸まさゆきにとっては迷惑極まりないことも多々あった。


「おめぇ、朝情けない表情で『カオリちゃんに謝りたーい』って言ってたじゃんか!」

「謝るなら出来るだけ早い方がいいし、その後もおめぇにとって有利になる!」


 そんな言い方してないし情けない表情をしてた覚えはない。

 だが謝罪の件については同意見だった。


 しかしながら昨日今日でしかも家まで訪ねて謝罪するってのはどうであろうか?

 いささか常識に外れるのではないのか?


「どうする政幸まさゆきよ?」


「そうだな、今はどうせ嫌われているだろうが、彼女に謝りたいってのは俺の本心だ真司しんじの言う通り謝罪は早い方がいいと思う・・・。 お願いできるかな?」


 真司しんじ政幸まさゆきの肩に手を置き満足そうな表情を浮かべていた。


「ああっ、まかしときな!」

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