第7話 撤収



作業服を着た男が携帯にタッチしている。

そしてまた、中村に画面を見せる。

『特区の人物を殺したのは誰だ?』

中村は画面から視線を外すと、その携帯を持った人物を見る。

顔は目だけが出るマスクをしている。

誰かはわからないが、間違いなく特区の隊員だろう。

携帯を見せた男は中村の髪の毛を掴み、顔を引き上げた。

社長の方を向かせる。


社長は既に拘束されている。

口もマスキングテープで塞がれていた。

中村は一瞬で理解する。

もう終わったのだと。

そう思うのも束の間、中村の顔の前にまた携帯の画面が見えた。

中村は髪の毛を離され、右手の人差し指を折られた。

ビキッ!

「ウグッ」

中村はそのまま床に座らされる。

社長も同じように中村の横に座らされる。

社長にも同じように携帯の画面を見せる。

社長は完全に怯えているようだ。

「ん~! ん~!」

社長は中村の指が折られるシーンを見さされていた。


ゴン!

社長が殴られる。

そして、また同じように同じ携帯画面を見せられる。

社長の口のマスキングテープがゆっくりとはがされた。

社長が怯えながら言葉を出す。

「・・さ、佐山だ・・」

携帯を持っていた人物が、携帯画面をタッチする。

そしてまた社長に画面を見せていた。

『どこにいる?』と書かれている。

社長が不安そうな顔で中村を見る。

中村が代わりに答えた。

「ここにはいない」


携帯画面を再びタッチしている。

『その人物を呼び出せ』と書かれていた。

社長は不安そうな顔で中村を見る。

中村はうなずくしかなかった。

社長は拘束されたまま携帯電話を操作する。

「・・さ、佐山か・・ちょっと来てくれへんか? ・・あぁ、急用や・・すまんな」

社長の携帯は取り上げられた。

中村が言葉を出す。

「お前たちは、特区の隊員だな・・俺たちをどうする・・いや、もう決まっているのだろう・・俺たちは触れてはいけないものに触れてしまったんだな」

中村が自嘲する。

菊池たちは全く反応しない。


菊池が手で合図をしていた。

村上と山下がうなずくと、無言で部屋から出て行く。

中村が発言したのに少し気が緩んだのか、社長が口を開く。

「お前ら、特区の隊員か? すまんかった・・ワシも弟が殺られたんで腹が立ったんや。 でも、これで痛み分けやろ?」

・・・・

・・・

社長がいろいろと口走っていたが、菊池たちは無言のまま動かない。


しばらくすると、先程出ていった隊員の1人が男を引きずり戻って来た。

佐山だ。

両手両足を縛られている。

乱暴に社長の前に放り出された。

「さ、佐山ぁ」

社長が声を出した。

その瞬間、佐山と社長にパラライズガンが撃ち込まれた。

プシュ、プシュ!

社長たちは動かなくなる。


中村はそれを確認すると、目の前が暗くなった。

遠のいていく意識の中で中村は思う。

なるほど・・本当に佐山かどうか確認するために社長の意識を保たせておいたのか。

あぁ・・特区の人間、特に隊員に手を出したのが悪かったんだ。

もともとこちらの仕事を特区でしようと思ったことが間違いだったのだ。

他の組の奴等も気を付けないといけないな。

あぁ、俺の人生って・・。

中村はそこまで思うと、意識が途絶えた。



菊池たちは状況を確認すると、最後の作業に取り掛かる。

一切言葉を出すことはない。

村上と山下が、作業用の道具を回収に行く。

山下が車を移動させてきた。

社長と佐山、中村を車の中へ運ぶ。

拘束した組員たちはそのまま放置。

死んではいない。

・・・

玄関で菊池はドローンの回収を行う。

突入から約15分が経過していた。

少し長く滞在し過ぎたかもしれない。

ただ時間帯が平日のお昼ということで、通勤ラッシュには出会わずに済んだようだ。

堂々と入り口から出て行く。


そのまま来た道を戻って行った。


<木村邸周辺住人>


この辺りの治安は良い。

本当に閑静な住宅街と言葉が相応しい。

木村邸の影響は間違いない。

妙な事案が発生することはない。


菊池たちの車が作業をしているのは知っていた。

ただ木村邸の作業だろうと言うことで、特に関心は示さなかった。

それに音もしない。

静かに時間だけが過ぎ去っていく。

気づけばいつの間にか作業は終わっていたという感覚だった。



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