赤い髪の少女〜その2
「僕が君に依頼するよう指示したんだ」
そう言いながら、高津川会長はニコリともせず入って来た。
相変わらずストイックなオーラを漂わせている。
「会長が……なんでまた!?」
美乃が驚き顔のまま質問する。
生徒会の役員会議以外では
自分は単なるクラス委員の一人に過ぎない。
なのに何故?
「……葛城から話は聞いた」
そう言って、会長は麗美の隣に腰掛けた。
「葛城先輩……?」
美乃が言葉を詰まらせる。
元生徒会第二書記で今は転校して此処にはいない。
美乃らが新入早々に遭遇した副会長負傷事件の主犯である。
事の真相を知っているのは、美乃と凪だけのはずだ。
(詳しくは『さそり座の針』ご参照よろぴく♪)
「彼女が転校する前に真相を話してくれたんだ。迷惑かけた謝罪も含めてね。君のおかげで気が楽になったと感謝していたよ。自分の計画をことごとく見破られたと苦笑してたがな」
高津川会長は能面のような表情のまま淡々と語った。
「実は今回の一件、この仙道君から要請があってね。新聞記事を書いた者として、ぜひマナコの正体を確かめたいと言うんだ。校内でもちょとした騒ぎになっていることから調べてみる事にした。だが色々手を尽くしてはいるんだが一向に
「ち、ちょっと待ってください!力を貸すと言っても、今回の内容はこのガッコの都市伝説ですよね。そんな幽霊探しみたいな事、私には無理です」
美乃が慌てて否定する。
確かに葛城の一件は真相究明にたどり着く事ができた。
しかしそれは自分一人の力では無い。
そう……私の力と言うより、むしろ……
そこで美乃はチラリと凪の方に視線を走らせた。
フヌケ先生は写真を眺めてはまだ首を傾げている。
「実際のところ僕は幽霊なんか信じちゃいない。そんな非現実的なもの存在しているはずがない。僕が知りたいのは今回の幽霊騒ぎを引き起こしている奴の正体だ」
そう言い切る高津川会長の目が光る。
美乃以上に合理主義者の目をしていた。
「見たところ君も僕同様、心霊現象などは信じていないようだ。そういう客観的思考の者でないと真実は見極められない。それに君の推理力は葛城の件で実証済みだしな。どうだろう、協力してくれないか」
そこまで語ると、唐突に会長は頭を下げた。
「そ、そんな!やめてください、会長……分かりましたから」
美乃は慌てて両手を振りながら叫んだ。
まさかこの会長が頭を下げるなど想像もしていなかった。
こう出られると、どうしようも無い。
「やれるかどうか分かりませんが……とにかく私なりに調べてみます」
「そうか……助かるよ」
渋々相槌を打つ美乃の顔を見て、会長は居住まいを正して言った。
「ではとりあえず、事の詳細を話していただけますか」
美乃の依頼に高津川会長は無言で頷くと、隣に座る麗美に顔を向けた。
「……この写真を撮ったのは、今から二週間前……」
麗美は軽く会釈を返すと、抑揚の無い口調で切り出した。
二週間前、麗美の所属する新聞部に一通の投書があった。
差出人不明の封筒の中には一枚の便箋が入っており、そこにはこう書かれていた。
『トイレのマナコさんが復活する。また新たな恐怖が始まる』
部長は誰かのイタズラだと取り合わなかったが、麗美には何か嫌な予感がした。
そこで改めてマナコさん伝説を調べ、心霊現象が必ず放課後の女子トイレで起こる事を突き止めた。
その日から毎日放課後、麗美は張り込みを続けた。
どの階のトイレか分からないため、毎回場所を変更した。
張り込み開始から三日後、ついにその時が訪れた。
一階の女子トイレに少女の霊が現れたのだ。
黒い大きな瞳に、赤い髪――
紛れもなくマナコさんだった。
麗美は声を失ったがなんとか踏み止まり、執念でフラッシュを焚いた。
血の気の無い顔が驚きに変わり、マナコさんは低い呻き声と共に外に飛び出して行った。
緊張で体の硬直した麗美は、その場に立ち続けるしか無かった。
翌日部長に事の次第を報告した麗美は、早速校内新聞の記事にしようと動いた。
だが残念ながら現像した写真は使いものにならず、麗美は再度写真撮影にチャレンジしなければならなかった。
同じトイレで張り込みを続けた二日後、やっと鮮明な写真を撮る事に成功したのだった。
さすがに今度は冷静に対処する事ができた。
麗美はしっかり足を踏ん張ると、落ち着いてフラッシュを焚いた。
その直後、マナコさんは個室の中に逃げ込んだ。
麗美はすかさず後を追ったが、個室の中はもぬけの殻だった。
二度に
特に大きな瞳と赤い髪の写った写真はインパクト絶大だった。
元々この学校の都市伝説だった事もあり、生徒たちの関心は驚くほど高かった。
どのグループも話題の筆頭にのぼり、女子トイレ前で自撮りする者も増えていった。
中には本物見たさに、放課後トイレ前で張り込む
あまりの騒ぎの大きさに不安を感じた麗美は生徒会に相談した。
自分が遭遇したマナコさんの真偽確認を依頼したのだ。
ちょうど生徒会も事態を憂慮し始めたところだった。
記事を書いた麗美からの情報を元に、極秘に調査に乗り出した。
問題のトイレを執行部で張り込んだりしたが、結局遭遇する事は無かった。
それどころか
たまたま部活で登校していた女生徒が出くわしたのだ。
絶叫するその女生徒の目前で、マナコさんはかき消すように消え去った。
いまだ手掛かりの得られない生徒会は苦慮した挙句、こうして会長自ら美乃の元を訪れたという訳だ。
「事情は分かりました。調査はここにいるメンバーで行いたいと思いますが、よろしいでしょうか」
美乃はそう言って、凪と紀里香を指し示した。
「ああ、構わない。ちなみに君たちは……」
「浜野紀里香と言います。美乃のツレ……親友であります。会長殿!」
紀里香は声高に名乗ると敬礼した。
まるで軍隊だ。
さてはこやつ、高津川会長のようなタイプは苦手と見える。
「ああ、よろしく。あと君は確か……」
写真を額に乗せキャッキャと喜んでる凪に目を止める。
「確か……タキミヤ……?」
「はぁ」
「ほう、変わった名だな」
おいおい、またこのパターンか!?
さすがに三章続けて同じボケはダメだろ。
「い、いや彼は滝宮凪と言います。私と同じクラス委員です」
美乃のフォローに、これは失敬と謝罪する会長。
もっとも、このフヌケ大王ほど影が薄いと覚えられないのも当然と言える。
「それで……どうするつもりだ」
高津川会長が射るような視線を美乃に向ける。
美乃は暫し考えた後、
「とりあえずマナコさんの出た場所を回ってみます」
そう答えると、美乃は凪から写真を取り上げた。
フヌケ大王の目が名残惜しそうにウルウルと
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