盗まれた恋文〜その5
秋月教諭のスキャンダルが校内で報じられたのはその翌日だった。
元々離婚歴があったのだが、最近新しい彼氏が出来たらしい。
校内新聞には男性と並んで歩く教諭の写真がデカデカと掲載されていた。
別に法を犯している訳では無いので、学校側も事情を聴くにとどまった。
ただ、綺麗で人気のある教師なだけに生徒の反響は大きく、校内新聞掲載については自粛するよう指導があった。
生徒会からも新聞部に対しチェックが入った。
情報の出どころについては、写真とメモが匿名で投稿されてきたらしい。
結局、誰が送ったかは分からずじまいだ。
当然のごとく朝霧百合子の悲痛は相当なものだった。
恋愛対象としてだけでなく、顧問としての信頼も厚かっただけにその悲しみは大きかった。
二日ほど体調不良で学校を休み、出てきた時にはかなり憔悴していた。
園芸部にて管理している中庭の花壇に百合子は久々に足を運んだ。
気持ちの落ち込んだ時は必ずここに来るようにしている。
自分の育てた花々たちが幾分かでも癒してくれるからだ。
「あら……?」
鮮やかに生え並ぶバラ園の前まで来た時、誰か人影が見えた。
痩身で眼鏡をかけた姿には見覚えがある。
「……蜂谷……くん?」
それは同じクラスの蜂谷誠だった。
あまり喋ったことは無いが、秀才で知られている生徒だ。
「やあ……朝霧さん」
誠は少し驚いたように振り向いた。
「体調は……大丈夫なの?」
静かに尋ねる口調には、心配したような響きがあった。
「ええ、なんとか。ありがとう……ここで何をしているの?」
「実は君が体を壊したと聞いたので……これを」
そう言って誠は手に持った紙包みを差し出した。
包みからは数輪のバラの花が顔を覗かせている。
「これは……!?」
百合子は思わず言葉に詰まる。
その紙包みには見覚えがあった。
「……あなただったの?部室の前にバラを置いたのは……」
誠の顔が照れくさそうに歪む。
よく見ると誠の右手には小さな剪定バサミも握られている。
つまりこのバラは、たった今切り取られたものということだ。
「どうして……こんな」
「ここ数日、授業を受けている君の姿に元気が無かったから……なんとか元気づけたいと思ったんだ」
そう言って誠は優しげな笑みを浮かべた。
「これは僕の君に対する想い……受け取ってくれるかな」
誠はバラの花束を百合子の手に乗せようとした。
「いえ……ごめんなさい!」
それだけ言うと百合子は口を押えてその場から駆け離れた。
目から涙がこぼれ落ちる。
結局百合子が得たものは癒しではなく、胸の詰まるような悲しみだった。
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