片想いの肖像~その4

翌日の昼休み、美乃と凪は山広智也のもとを訪れた。

教室にいなかったので探し歩くと、体育館裏の木陰で一人昼食を摂っていた。


近寄って来た二人を驚いた顔で見上げる。

小柄で色白、見るからに気弱で奥手おくてそうな雰囲気をまとっている。

丸眼鏡の奥の瞳がチワワを連想させた。

この手のやからは特に女子との会話は苦手なはず。

美乃は凪に目配せして話しかけるよう促した。


「コンニチ……ワ」


まんま『ワレワレハウチュウジンダ』のイントネーションで凪が切り出す。

語尾の遅れはもう無視することにした。

「……あ、あの……」

凪の眠そうな顔を見て智也は怯えた声を出した。

「ぼ……ぼく……」

「はぁ」

「ぼ……ぼく……」

「はぁ」

「そ……その……」

「はぁ」

「ええいっ!まどろっこしいわ!!」

たまらず美乃がツッコむ。

フヌケとオクテの会話がこうも成立しないとは思わなかった。

セキセイインコと喋る方がまだマシだ。


「山広君よね。お食事中悪いんだけど、ちょっとだけお話聞かせてもらっていいかしら」

後を引き継いだ美乃がいつもの有無を言わさぬ口調で切り出した。

その迫力に恐れをなしたのか、智也がぶるぶると首を縦に振る。

「あなたのクラスに浜野紀里香さんているわよね」

美乃は相手の反応を見る。

智也はうつむいたままビクッと肩を震わせた。

「その浜野さんが最近誰かにストーカーされてて困ってるの」

見る見る智也の手が震え始める。

「ついこの間もB棟の裏で盗撮されたらしいわ」

「……そ、それが何か……」

なけなしの勇気を振り絞り智也が答える。

「……ぼ、ぼくには何の事か……」

「浜野さんが言うには犯人に心当たりがあるらしいの」

ここで美乃は切り札を繰り出した。

その言葉に智也の表情が凍りつく。


ははぁ、当たりだなこりゃ。


「あのね、山広くん」

山広智也の犯行を確信した美乃は、ここから一気に畳み掛ける事にした。

「知ってると思うけど、ストーカーも盗撮も立派な犯罪なの」

美乃は腕組みをしながらゆっくりと少年の前に立った。

どこからか某刑事ドラマのエンディングテーマが流れ出す。


♪〜♪〜(刑事ドラマ風)


智也の前にカツ丼の置かれた簡素な事務机が現れた。

「されている人の身にもならなきゃ。今からでも決して遅くはない」

いつの間にか黒いスーツ姿に五分刈り頭となった美乃が机に身を乗り出す。

「な。もう終わりにしようや。あんたの母ちゃん泣いてるぞ」

その最後のセリフに智也はガックリとうな垂れた。


落ちた♪


美乃は満足気に頷きながら少年の肩にそっと手を置いた。

熟練刑事も舌を巻くテクニックだ。

横で調書をとっているはずの凪の寝息が辺りに木霊した。


♪〜♪〜(BGMひときわ大きく)

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